教育委員会対象セミナーを3月27日、仙台市内で開催した。文部科学省初等中等教育局学校デジタル化プロジェクトチームリーダー・武藤久慶氏、新地町教育委員会、郡山市教育委員会、岩沼市立岩沼西小学校、福島市立吾妻中学校、仙台白百合学園小学校、宮城県古川黎明中学校・高等学校が登壇。当日の講演内容を紹介する。なお肩書きは3月末時点。
福島市立吾妻中学校(渡部正晴校長・福島県)の菅野俊幸教諭と難波元生教諭は、福島の農業から学ぶSDGs教育活動と、ICTを活用し、理科を「好き」から「得意」に感じ、主体的な学びにつなげる授業について報告した。
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福島県は、桃、なし、リンゴ等の生産が盛んな地域だ。しかし東日本大震災から12年経過した今でも、価格は震災前の水準に回復していない。全国的に、農業離れも起こっている。震災の記憶が薄い今の子供たちが、福島県の農業の実態を知り、地元の未来をどう築くか、郷土を担うリーダーとして意識を高めようと、SDGsをキーワードとして福島の農業をテーマに取り組んだ。
原発事故の様子を資料で学び、未だに震災工事が続く現場を見学。震災による風評被害の影響が続いている地元福島の農家の方にヒアリングし、専門家に質問。実際の農業を体験するため「バケツ稲」の栽培にも挑戦。情報端末で稲の生長を記録し、施肥管理や病害虫対策等も学んだ。
どこの地区よりもおいしい福島の牛乳や桃、4年かけて高糖度を実現したトマトのおいしさをどう伝えるかをテーマとし、PRするポスターも制作した。
本校で理科の授業でICTを積極的に活用しようと考えたのは、昨年2年生に行ったアンケートで結果がきっかけだった。「理科の学習が好きか」という質問に「好き」と答えた生徒は約9割と高い割合を示したが、「理科の学習が得意か」という質問に「得意」と回答した生徒は6割程度にとどまった。そこで理科を「好き」から「得意」にしたいと考えた。また、教員が、生徒の学習状況を正確に把握し、生徒の考えの変容が分かるよう、指導方法の工夫にも取り組み、ガイダンスツールやシンキングツール、レコーディングツール等も活用した。本取組はパナソニック教育財団の2022年度実践研究助成を受けている。
理科の授業では、生徒が実験に対して、気づきや疑問を整理できるよう、OPP(One Page Portfolio)シートをデジタルで作成。OPPシートは、授業前後の学習履歴を記録し、単元学習が終わった後、全体のふり返りを1枚のシートにまとめるもの。自分の考えを書くことが苦手な生徒は、他人の意見を参考にして書くことができる。クラスの中で多かった疑問を、単元を貫く課題として設定して進める。単元終わりに学習後の考えを書いてふり返りを行い、自己評価を行った。課題を自分たちで決め、解決のための見通しを考えたことが、主体的な学習につながっている。
実験レポートは、紙とデジタルのハイブリッドで作成。実験の様子を動画や画像に記録。紙のワークシートはテキストで考察をしっかり記し、写真を撮ってデジタルノートに貼り、関連づけてまとめた。
デジタルレポートの相互評価では友達のシートにコメントすることで理解が深まり、また友達からのコメントをもとに、更に調べるようになった。
自分の学習をふり返ることで、自身の変化や成長を実感するメタ認知力の育成につながった。
12月のアンケートで理科の教科が「好き」「得意」と回答した生徒がそれぞれ増加した。全体の9割が「情報端末を使用した授業の方が分かりやすくなった」、7割が「さらに調べたくなった」と回答した。本取組の前後で調査結果が変わらない生徒もおり、さらに分析を進めていきたい。
【第97回教育委員会対象セミナー・仙台:2023年3月27日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年5月1日号掲載