教育委員会対象セミナーを3月27日、仙台市内で開催した。文部科学省初等中等教育局学校デジタル化プロジェクトチームリーダー・武藤久慶氏、新地町教育委員会、郡山市教育委員会、岩沼市立岩沼西小学校、福島市立吾妻中学校、仙台白百合学園小学校、宮城県古川黎明中学校・高等学校が登壇。当日の講演内容を紹介する。なお肩書きは3月末時点。
約10年前から町を挙げてICT教育に取り組んでいる福島県新地町教育委員会(小学校3校・中学校1校)の佐藤和子指導主事は、校務系・学習系のデータ連携の効果について報告した。
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本町は2010年度より様々な実証事業の採択を受け1人1台端末配備やICT支援員の常駐、クラウドを活用した学習環境整備を進め、町も学校もICT教育に比重を置いて推進してきた。
町全体で一元的に進める体制づくりの核はICT活用協議会だ。各校の情報教育担当者、管理職、有識者、関連企業、ICT支援員で構成され、年6回開催。活用の中核を担う情報教育担当者には若手の教員も多い。互いにサポートできる組織体制が効果的に働いている。
ICT支援員は10年度から現在まで継続して各校に1~2人常駐しており、業務内容は端末やシステム等のメンテナンスに限らず教育活動でICTに関するもの全てと多岐にわたる。月1回の定例会で取組状況やトラブル事例の情報を共有。教育委員会も参加し連携を図っている。
17~19年度の実証事業では校務系システムと授業・学習系システムの連携による教育効果を研究し、8つのモデルづくりに取り組んだ。現在も継続して取り組み、成果の定着を図っている。
1つは、授業中の子供たちの関係性をデータから把握し不安を抱える子供の早期発見と支援につなげる取組だ。協働学習支援ツールの学習記録データ(発言マップ)と学校生活満足度調査(WEBQU)、出欠情報、保健室利用情報を連携。満足度調査で要支援群に位置する、欠席傾向が目立つなど気になる子供を発言マップ上で色分けし瞬時に把握できるようにした。Web上の関わりを可視化すると、普段の様子からは見えない子供同士の関係性が見え、他の子と関われないなど配慮を必要とする子供に気付くことができる。これを担任が把握することで、協働学習での意図的なグループ編成や声掛けなど孤立化させない支援につなげている。データとして関係教職員と共有でき、ケース会議の資料としても活用している。
不登校及び不登校傾向の子供への組織的な対応にもデータ連携が有効だ。デジタルドリルの学習記録データと日常所見情報、出欠情報、保健室利用情報を連動させ、随時確認できるように設定。生徒指導上の有用なデータを示すカルテとして、学級担任だけでなく関係する教職員が同時進行で不登校や不登校傾向の子供の日々の様子を確認できる。情報共有における時間設定の困難さや口頭での伝達による齟齬が課題だったが、この取組により学校を挙げて共通した支援体制を構築できるようになった。
担任は子供が欠席した単元の問題を端末上で出題して学習の漏れを防いだり、タイムラインで励ましを送るなど支援。信頼関係を深めることができ、関わりを途切れさせない1つの手段になると考えている。養護教諭は日常所見情報から子供の困り感を察知した声掛けがより可能になる。SC、SSWも別室登校やカウンセリングでデータによる見取りを活用。SSWが学習状況を把握し、NPO法人の学習支援事業者と連携してドリル学習で補えない部分の個別の学習支援を行うなど支援体制の充実につながった。現在、不登校は中学1年まで0になった。
今後もデータに基づいた早期の支援と教育効果を最大化するチーム学校の実現に向けデータ連携に取り組んでいく。
【第97回教育委員会対象セミナー・仙台:2023年3月27日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年5月1日号掲載