教育委員会対象セミナーを3月27日、仙台市内で開催した。文部科学省初等中等教育局学校デジタル化プロジェクトチームリーダー・武藤久慶氏、新地町教育委員会、郡山市教育委員会、岩沼市立岩沼西小学校、福島市立吾妻中学校、仙台白百合学園小学校、宮城県古川黎明中学校・高等学校が登壇。当日の講演内容を紹介する。なお肩書きは3月末時点。
岩沼市立岩沼西小学校(林恵美子校長・宮城県)の鈴木雅美教諭は、ICTを活用した対話的な学びの実践を報告した。
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ICT導入前は手間のかかった意見の共有が、今は一瞬でできるようになった。欠席している子供とリモートで学び合うことも日常化している。
本校は全33学級と大規模校で、子供1人ひとりの発表機会の減少が課題だった。そこで2020年度より研究主題を「対話的な学びが生まれる授業デザインの探究」と設定し、自分の考えを表現し互いに伝え合う授業づくりを進めてきた。
21年度にはコロナ禍でも子供たちがつながることのできるツールを増やそうと、パナソニック教育財団の実践研究助成を受け、ICT活用が加速した。児童会の挨拶運動で挨拶クエストカードを端末で配布したり、委員会のCMを作るなど、子供たちは学校をより良くするためにICTを用いるようになり、「やってみたい」という声も増え、教員の想像を超えた取組が様々な場面で見られるようになった。
授業では課題に対する自分の考えを授業支援ツールで可視化して共有し、子供自身が目的に合った相手を決めて対話する。これを「目的を持った尋ね歩き」と呼んでいる。尋ね歩きを通して子供は自分の役割を果たそうとするようになった。交流後は、考えの深まりや広がりを基に自分の考えを再構築。全体共有には22年度に各教室に導入された黒板全面に投影できるプロジェクターを使う。2画面分割の投影やチョークで書き込みもできる。AppleTVも常設され、黒板が一層学習に役立つ道具になった。
さらにICTで問題提示を工夫し、子供の問いから課題を設定。まとめも子供の言葉で行うことを意識した。これにより学習内容を理解し直すことができる。まとめ方も子供が考えて取り組んでいる。6年国語では意見文の学習で、初めに書いた文章と友達の意見、書き直した文章を貼り付け、書き直しの根拠を残すことで成長が実感できるまとめになっていた。
22年度はメタ認知を目指すふり返りに取り組んだ。授業の最後に本時の「分かったこと」「分からないこと・心配なこと」を明確にして共有。自己の学び方を自覚でき、友達の様子を知ることで不安も取り除かれる。授業以外でもこの方法で自己分析し、「分からない」を「分かる」に変えようとする姿が見られるようになった。
ふり返りにより家庭学習の取組も変化した。本校では端末を毎日持ち帰り、課題にデジタルドリルを活用している。次第にめあてとふり返りを書き、間違った理由を考え分かるまで取り組むようになった。疑問点を書き込んで提出することもでき、リアルタイムで受け取れるため、教員も教え方を事前に工夫できる。
家庭学習も全体で共有。友達の学習を参考に、より良い方法や自分なりの活用を見つけクラス全体が進化した。配布された課題ではなく自分の苦手な問題に挑戦するなど、自分で学ぶことを決めて取り組む子供も現れた。
研究ではまず、教員間の「対話」の共通理解に努めた。互いの考えを受け止め異なる視点を得て、思考を広げ深め合うことを「対話」とし、目的ではなく手段だと繰り返し確認。対話に充分な時間を確保するには教員が明確な単元構想を持つ必要があるため、対話を取り入れる意図と場面がひと目で分かる単元構想シートを作成。対話の対象は人に限らない。過去の自分や書籍などすべてが対話につながる。教員のファシリテート力が重要だ。
今後はさらに意味あるふり返りを目指し、指導と評価の一体化を単元構想シートに取り入れ、今まで取り組んできた協働的な学びと、1人ひとりのふり返りを生かした個別最適な学びの両輪が回るよう研究を進めていく。ふり返りや取組に対する個別のフィードバックにはICTが効果的と考えている。
子供も教員自身も学びの面白さを感じ、変わることを実感した。学級の基盤づくりを前提に、教員のファシリテート力を高めながら、子供の可能性を引き出す取組を続けていく。
【第97回教育委員会対象セミナー・仙台:2023年3月27日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年5月1日号掲載