教育委員会や学校の整備担当者を対象に実施している「教育委員会対象セミナー~ICT機器の整」が、12月5日に東京で開催された。当日は約110名の教委・教員が参集した。
神奈川県教育委員会は、新学習指導要領で求められる生徒用端末整備に向けて、BYOD専用回線の学校整備を進めている。
柴田課長がその目的を、橋本指導主事は具体的な整備のポイントを、実際の活用の様子を生田高等学校・小原総括教諭が報告した。
高大接続改革により、現在の高1生は大学受験の際にポートフォリオが必要とされており、高校ではポートフォリオへの関心が高まっている。eポートフォリオの蓄積には生徒1人1台のタブレットが有効であることから、BYOD体制の構築が学校から求められた。
そこで他県や他校のBYODの状況について情報を収集したところ、BYODは私学を中心に急速に拡大しており、一部の公立学校でも導入が始まっている。接続方法は無線LANやセルラー、端末負担者は自治体や保護者など、様々な選択肢があることが分かった。
神奈川県は県立高校の生徒用端末の整備率が低いが、①生徒のスマートフォン所有率が高い、②民間の高速光回線を活用できる地域が多い、③スマートフォンを持たない生徒にタブレット端末を貸し出せるなどの強みを持つ。そうした背景から限られた予算の中で、神奈川県立高校らしいBYODの方法を検討。その結果、生徒が持っているスマートフォンを民間の回線につなぐ方式でBYODの導入に踏み切った。
神奈川県の情報教育の課題として生徒用端末の整備は段階的に進めているが、学校数が多く、整備が完了するまで授業で端末を使わないのは無理がある。そこで生徒のスマートフォンを教育委員会ネットワークから独立した民間の光回線に接続する取組をモデル校14校で取り組んだ。
フィルタリングについては、生徒の携帯キャリアのフィルタリングレベルを想定。トラブルが増えるという懸念の声もあったが、各校で情報モラル教育に関する指導を行うことに重きを置いた。
既存の教育委員会が引いた無線LANと生徒たちが使用する民間の光回線は同じ経路だが、生徒が使用する回線からは既存のネットワークに入れないようにした。
不正接続検知センサーが登録した端末以外はネットに入れないように設定。誰がどんなサイトにアクセスしたかもわかる。
モデル校の1つである生田高では、BYOD導入前はタブレット端末やプロジェクターを使いながら一斉学習や協働学習に力を入れてきた。しかし、2人で1台のタブレット端末のため、生徒から「画面が見づらい」「同じ生徒ばかり端末を操作している」などの声も聞かれた。教員も20台のタブレットを教室に運ぶなどの負担があった。
平成29年11月、学校説明会で中学生と保護者にBYODの取組を説明。平成29年11月から30年1月にかけて、情報利活用推進委員会がBYOD運用のルールを検討し、BYOD導入ガイドラインを策定した。2月には在校生と保護者にBYOD導入モデル事業に関する案内を配布。4月には新入生に対してICTオリエンテーションを実施。ルールやモラル、接続方法などを1年生に周知した。
基本ルールは、毎日スマホを持参する、充電は自宅で行う、ウイルス対策は各自で行うなど。黒板の内容を「写メ」で撮ることも許可。授業中にスマホは使えるが、SNSでの授業中のつぶやきや動画配信を禁じている。また、他人のIDの不正利用やハッキング行為、他人の悪口などのSNS投稿は特別指導になることがあるとしている。
現在、生徒の9割以上はスマホを持参しており、数名はiPadを持ってきている。スマホを持っていない生徒は学年に数人程度で、学校がPCを貸し出している。
BYOD導入後の授業では、個人で考えたり、グループで考えたり、個人とグループの間を行き来しやすくなった。
授業で気軽にICTを使えるようになり、生徒がICT機器を文房具のように使いこなし、1人1台で学ぶ環境につながっている。
生田高校では個人的にiPadを持ち込んでいる生徒もいる。そうした生徒が今後増えそうである。
【講師】神奈川県教育委員会 総務室ICT推進担当課長・柴田功氏、神奈川県教育委員会 指導部高校教育課指導主事・橋本雅史氏、神奈川県立生田高等学校・小原美枝総括教
【第54回教育委員会対象セミナー・東京:2018年12月5日】
教育家庭新聞 新春特別号 2019年1月1日号掲載