教育委員会や学校の整備担当者を対象に実施している「教育委員会対象セミナー~ICT機器の整」が、12月5日に東京で開催された。当日は約110名の教委・教員が参集した。
東京大学 松尾研究室では、ビッグデータ、ディープラーニングを先導するために必要な人材育成に取り組んでいる。中山氏は現在の取組と世界の潮流について語った。
ディープラーニングの技術により、AIがプロの囲碁棋士に勝利した。30~40年先と思われていたことが起こり、研究者は大きな衝撃を受けた。
ディープラーニングはその汎用性の高さから、Google翻訳など様々な場面で活用されている。ディープラーニング技術がこの4年間でできると証明したことは、自動車の自動運転、言語翻訳、高精度ながんの発見、人ごみから犯罪者を見つけるなど多岐にわたる。世界ではAI人材、特にディープラーニングの分野において熾烈な人材獲得戦争が起こっている。そしてそのための教育者が圧倒的に不足している。
AI研究の先進国カナダでは、世界最高レベルの人工知能の研究を行うベクター研究所を設立。AIの修士を年間1000人育成することが目標で、ディープラーニングの創始者であるジェフリー・ヒントン教授が就任。オンタリオ州は約42億円を支援すると発表し、カナダ連邦政府も約33・6億円を助成する。このほかAIを全産業において商業化するために、医療、銀行、会計、保険、小売り、通信、製造、技術、運輸、鉱業、建設及びロジスティックスなど各分野のパートナーと協力している。
フランスはマクロン大統領が「AI立国」を宣言し、約1600億円を支出。先進的CSスクール「42」では、生徒が競い合う形で様々なプロジェクトに入り、技術を高めている。ベンチャー企業を立ち上げるもしくは就職した時点で「卒業」だ。
中国ではAIに特化した人材育成のため人材育成・投資ファンド「シノヴェイション・ヴェンチャーズ」に629億円を調達。「次世代AI発展計画」として2030年までに約160兆円の市場規模を作る方針だ。
AIやICTの世界ではコミュニティ型の教育が重視される。教員がすべて教える従来の流れから、基礎的なことは教えつつ、受講者同士が新しい情報を持ち合って高めるスタンスが求められている。
松尾研究室では「機械学習」とAI革命のきっかけとなった「ディープラーニング」の2つを重点的に研究し、「人材育成」「基礎研究」「社会実装」の3つに注力。この5年間で約2400人にAI人材の育成プログラムを提供した。
平成26年から開始したデータサイエンティストとして必要な知識と技術を身に付ける「東京大学 データサイエンティスト育成講座」から始まり、平成27年「ディープラーニングJP」「東京大学ディープラーニング講座」、平成29年「社会人向けデータサイエンティスト育成講座」、平成30年の3年間でディープラーニング技術者を1000人育成する「DL4US」などだ。
「データサイエンティスト育成講座」ではプログラミングの基礎やAIの入門的な技術、ビッグデータ解析などを学ぶ。ここで基礎的な知識を身に付け、他の講座を受ける流れ。平成29年は350名以上の受講申し込みがあり、本会場以外にリモート会場へ講義内容を配信した。大学院生のほか社会人も受講している。
エンジニア向け「DL4US」は定員150名のところ1900名以上の申し込みがあり、300名に拡張して実施。現在、第二期まで終了し、第三期の準備を進めている。
松尾研究室では、人材育成において「プログラミング中心」「コンペティション」「コミュニティを創る」の3つを柱に掲げている。
1点目の「プログラミング中心」とは、学んだことを自分で行うことで理解するプロセスを大切にすること。自ら体験しないと理解できない。
2点目の「コンペティション」では、受講者にAIを使ってスコアを競わせる。受講者は講義では教えなかったことまで、自ら調べてAIに学習させる。受け身の授業ではなく能動的に情報を集めて学習している。
3点目の「コミュニティを創る」は受講者がチームを組み、作品作りに向けて互いに情報を教え合って技術を高める仕組み作りだ。
AIの人材育成は、育てた後に人と技術をつなげたり、社会問題とつなげることが大事。今後はそのような活動にコミットしていきたい。
【講師】東京大学松尾研究室・リサーチディレクター中山浩太郎氏
【第54回教育委員会対象セミナー・東京:2018年12月5日】
教育家庭新聞 新春特別号 2019年1月1日号掲載