教育委員会や学校の整備担当者を対象に実施している「教育委員会対象セミナー~ICT機器の整備と活用・研修」が、10月12日に札幌で開催された。札幌開催は今回で3回目。当日は約100名が参集した
文部科学省は新学習指導要領にプログラミング教育を盛り込んだ。なぜ急に、という印象を持つ人もいるかもしれないが、今回扱わなければ、世界から大きく後れを取ってしまうのではないだろうか。そういうタイミングでスタートを切るのだ、ということをまず理解してほしい。
新学習指導要領総則には小学校でキーボード入力の必要性が明記された。アジアのある国では低学年まではiPadだが、学年が上がればノートPCを教室に持ち込みキーボード入力で調べ学習やメモ、チャットで話し合うなど活用している。イングランドや北欧の学校でも無線LAN接続されたノートPCで文字入力により協働編集に取り組むなど、デジタル文書作成を基礎的な学習活動の基盤と位置付けている学校が目立つ。
日本でも小学校3年生からローマ字指導での文字入力が例示されたが、アルファベットのみではなくバックスペースキー他を含めてキーボードを扱った効率的な文字入力能力の育成を期待したい。
プログラミング教育のねらいは3つ。1つが情報活用能力としてのプログラミング的思考の育成だ。プログラミング的思考とは「自分が意図する目的を達成するためには、どのような手順が必要になり、どのような順だと条件に即して最適になるのか、その手順の組み合わせをどう表現すれば良いのか、実行した結果が意図したものになっていなければ、どこを修正すれば良いのか」を「論理的な推論をしながら段取りを考える力」だ。この一部はコンピュータを使わなくても意識化できるが、コンピュータに対して働きかける際に特に特徴的に発揮される。
次に、プログラミングの働きや良さ等に気付くこと、その特徴を活用して問題を解決しようとする態度を育むこと。コンピュータは、文脈を判断せず命令されたことしかできない。そして瞬時に必ず同じ結果となる。そのような特徴を持つコンピュータに指示をするのがプログラミングだ。それを算数で体験する例示として示されたのが「正多角形の作図」だ。これは、繰り返しのパターンを把握しやすく、正確な作業が求められる。複雑な作図でも手で書くよりも圧倒的に速く描画され、プログラムの一部を変えるだけで色々な正多角形を同様に扱えることを実感できる。
全国で自治体や学校の実情に応じた準備が進んでいる。例えば、宮城県総合教育センターは「プログラミング教育スタートパック」として、初めての小学校プログラミング教育に役立つ様々な資料などを公表した。和歌山県では2月、公募型プロポーザル方式により「プログラミング教育指導用資料等作成業務」の委託業者を選定。「特定非営利活動法人みんなのコード」が受託した。
この移行期間を有効に活用することが重要だ。例えば、クラブ活動などでプログラミングのプレ授業を試行してみてはどうか。ある程度興味のある児童達を対象に手応えをつかむと教員はプログラミングの価値を実感できるであろう。最終的には教科でのプログラミング教育を実施するにしても、プログラミングそのものを学ぶ時間はどうしても必要だ。そのため、移行期間のうちに、いわゆるC分類(文部科学省・プログラミング教育の手引き参照)の学校裁量で実施できる時間を確保するようにカリキュラムを見直してはどうか。C分類としてプログラミングの基本的な体験を経ることで、AやB分類のような教科のねらいに即して、プログラミングで学ぶ授業が展開しやすいのではないだろうか。宮城教育大学では学生が主体となって小学校でワークショップなどを展開している。本格実施の2020年に「間違う」わけにはいかない。移行期間中に様々な手法や教材にチャレンジし、失敗してもそれを修正することが重要だ。中学校技術科で新設されたネットワークを利用した双方向のあるプログラミングの学習活動ができる環境の整備も2020年を前にすませておくべき点だ。主体的な活動が多くなるため、学習規律はこれまで以上に重要になる。
【講師】宮城教育大学准教授・安藤明伸氏
【第52回教育委員会対象セミナー・札幌:2018年10月12日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2018年11月5日号掲載