教育委員会対象セミナーは12月2日、東京都内で開催。教育委員会と教員が100人以上参集した。当日の講演内容の一部を新年号と2月号で紹介する。
青山学院大学ピクトグラム研究所の御家雄一研究員は、2018年から都立高校で教科「情報」を担当し、大学でも教鞭をとっている。「情報I」における4つの柱「問題解決・情報デザイン・プログラミング・データ分析」をまとめて扱う授業を展開している。
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「情報I」は、他教科と関連しあう科目である。またすべての教科の基盤となる側面もある。音のデジタル化を学習すれば音楽や物理と関わり、知的財産権は公民や美術などと関わる。「情報I」の大学入学共通テストの試作問題は、読解力や情報を整理する力が必須であり、国語と深く関わる。
授業では「教える」のではなく「体験」を重視し、かつ生徒が自発的に疑問を持つようにしている。その後で、理論的なヒントを与えて自ら気づき、理解を深める授業を意識している。「情報I」大学入学共通テストの試作問題も、その場で考えて解く問題が多かった。その点からも、考えることを習慣づけ、授業で実践していく必要がある。
「データの圧縮」の学習で、音の周波数により光の色が変わるペンライトを用意した。その仕組みについては生徒には知らせず、「嬉しいと赤に、悲しいと青になる」と伝えて音楽に合わせて授業で先生が踊った。最初生徒は「先生何やっているの」「また何か始めたね」という笑い声が溢れる雰囲気であるが、「色が変わるのはどうして?」と疑問に思う生徒も出てくる。ここで、色がなぜ変化するのかを生徒に考えさせる。
次にヒントを与える。再度踊りながら、ライトをスピーカーに向けたりする。先生はライトのスイッチを操作していないことを見せる。「もしかして音と関係している?」と考え隣の席の生徒と共有する生徒がいる。ここで、一斉に相談させて気づきを共有していく。
ここで「音」と「データの圧縮」について学ぶ。音には人には聞こえない周波数がある。それをCDに入れる必要はあるのか。そのデータを除けばデータの圧縮につながる。では先ほど踊りに使った音源はどうなっているのか。音源の周波数を視覚的に見える分析結果を見ると、人には聞こえないが、データとしては見える音があることに生徒は気づき、ライトの仕組みの科学的な理解と共にデータ圧縮の理論について理解が深まっていく。
「情報I」の大学入学共通テストの試作問題は、「文章を自分ごとのように理解して考える」ことが重要で、考える習慣を身につければなんとかなる、とも感じている。
「情報I」は、前課程の「情報の科学」から、さらに学習内容が追加されており、従来のように「順番に教える」方法では、授業時間が不足する。
そこでピクトグラムを活用して「情報I」における4つの柱「問題解決・情報デザイン・プログラミング・データ分析」を横断的に扱うこととした。
ピクトグラムとは、その形状により意味概念を理解させる記号だ。人型のピクトグラムの形状に木版をカットし、片面を黒塗りして表裏(白黒)を表した。すなわち2ビットである。人形数が増えるにつれて表現できるパターン(ビット)の数が増えていく。人形を2組ずつグループ分けする過程で包含除を意識させ基数変換の学習に発展させたり、人形を並べて、「A」などの文字をピクトグラムの白黒で表現し、画像のデジタル化の学習につなげたりできる。
「情報デザイン」ではピクトグラミングを使用している。これは、プログラミングの概念や情報デザインについて学習できる統合型アプリケーションである。これを使用してオリジナルのピクトグラムを作成している。ピクトグラムは、文字を使用してはいけないなど、様々な規格がある。
また、プログラミングの際もピクトグラミングを利用している。人型ピクトグラムに指示を与え、想定通りに動かすにはどうしたらよいか。自分の体では分かっていても、明瞭な指示に落とし込むことは難しい。自分の体のこととして考え、相談しながら、正確な指示を考える。誤った動作指示を出したりすると、人型ピクトグラムは想定外のおかしな動きをすることもあるが、それもまた楽しく、新たな発想のきっかけになる。指示以外の制作物を作り始め、脱線しているように見えても、実際は学習目的の一つである「俯瞰し、言語化する」体験につながっていく。
毎月末には、これらの学習で学んだことを発展させた生徒の自由な取組について「できた人だけ提出」させている。まずは褒めることが重要で、一歩でも前に進むことを重視している。生徒によっては、授業課題を流用して研究発表をするなどしている。
今後も、その場で生徒から疑問を感じ、自ら考え、俯瞰的な視点をも持てるように授業設計を進めて行きたい。
【第94回教育委員会対象セミナー・東京:2022年12月2日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年2月6日号掲載