8月23日、島根県松江市では初の開催となる「第59回教育委員会対象セミナー・ICT機器の活用と校務の情報化の推進」を開催。鳥取県と島根県の教育委員会・学校教員が参集した。
今、話題になっている「シンギュラリティ」は「人間の脳のシミュレートが可能になる」時代がくるということ。ある学者の脳の情報をそのままコピーできるとするなら、AIはその学者と同様の判断をすることができ、スピードは人よりも一千倍以上速い。これが実現すれば「平安時代の1年後に令和元年がやってくる」ほどのスピード感で物事が変革していく。
シンギュラリティが起こると言われている2045年、今の小学生は働き盛り。その時、何が起きていても生き抜く力を育む、これを目指すしかない、という状況にある。
国からも2018年から次々に様々な提言が出され、「答えのない課題に最善解を導く力を育む」ことが盛り込まれている。ポイントは「学びのSTEAM化」と「EdTechの活用」を核に、学習観のパラダイムシフト(既存の価値観や常識の劇的な変革)に活かすことである。
これまでの知識や社会問題とどのような結びつきにあるのかを理解する教科学習や、自ら有意味な課題を作りだして解決を積み上げ、理解を深めながら、新たな学習課題をつくる「深い学び」を実現できる探究型の学習が求められている。文理を問わず、未知の課題を見つけ、その解決策を見出す「探究・プロジェクト型の学び」(PBL)を実現すること。
さらに、この授業設計において「最先端技術の活用」を活かすことも求められる。文部科学省「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」では、▼遠隔・オンライン教育▼デジタル教科書・教材▼協働学習支援ツール▼AR・VR▼AIを活用したドリル▼センシング(発話量や視線などのデータ収集・分析)▼統合型校務支援システム、等のようなテクノロジーの教育活用を推進している。
対話を通して問題解決に挑み、他者との協調を活性化して学習者同士の建設的相互作用を引き起こすような学習を教室に持ち込み、1人ひとりが自分の考えを作り直す。課題遂行者と随行者は視点が異なるため、そのやり取りを通して、より早く抽象概念に到達できる。この働きを「建設的相互作用」と呼び、1人で課題解決を行うよりも協調して進めるほうが到達度は高いという研究成果も出ている。「建設的相互作用」を引き起こすための道具としてのICT機器の活用を心がけたい。
教員が教えるための「便利な道具」に留まらず、「考えて自分の考えを作り、ふり返る」「考えながら発信・説明する活動を促進する」道具としての活用を意識しなければならない。
今、学校ではどのような学びが実践されているか。
社会科では、当時の絵を拡大して情報を読み取り、どんな時代だったのかを考え、話し合う活動を行っていた。画像から読み取った時代の特徴を理解してから、当時の社会の仕組みを学ぶことで、なぜそのような仕組みにしたのか納得感を伴い理解できる。
中学校の生物では「概念地図」を活用していた。概念地図は、事物間に成り立つ関係の理解を、関係図を作成することで外化する。これを紙で行うと修正は困難だが、タブレット端末ならば、容易に変更できる。生徒は概念地図について「試験勉強に使える」と話していた。教員研修でも活用できる。概念地図や思考ツールは、授業支援ツールの機能として提供されていた。今後、クラウド活用とともにWebアプリも進化し、子供の学びは、学校と同様の環境で、家庭等の学校外でも再現できるようになるだろう。【講師】島根大学大学院教授・千代西尾祐司氏
【第59回教育委員会対象セミナー・松江開催:2019年8月23日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年10月14日号掲載