2020年度からの学習指導要領に基づいたデジタル教科書・教材が各社から提供される。新学習指導要領を踏まえた「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善や、特別な配慮を必要とする児童生徒等の学習上の困難低減のため、2019年4月、学習者用デジタル教科書を制度化する「学校教育法等の一部を改正する法律(平成30年法律第39号)」等関係法令が公布・施行され、紙の教科書の一部をデジタル教科書に代えて使用することが認められたことから、「学習者用デジタル教科書」を各社が発行している点が今回の特徴だ。学習者用デジタル教科書には、特別な支援が必要な児童における配慮に対応した機能を付加。指導者用デジタル教科書や学習者用デジタル教材などは「主体的な学び」を支援できる機能を追加した。東京書籍、教育出版、光村図書、大日本図書のデジタル教科書を紹介する。
東京書籍はデジタル教科書・教材のビューアにLentrance Readerを採用。教育出版、学研、学校図書は新規開発した共通ビューアを採用。光村図書、大日本図書、教育芸術社、日本文教出版、開隆堂出版は独自開発の「まなビューア」を採用。新興出版社啓林館と帝国書院は独自開発ビューア「超教科書」を活用。三省堂は独自に同社のデジタル教科書・教材を管理・配信するプラットフォーム「ことまな」で活用できるビューアを提供するなど、教科書会社各社のビューアは数種類に分類できるようだ。
文部科学省は3月、学習者用デジタル教科書実践事例集を策定し、活用効果として以下を挙げた。▼主体的な学習を実現するきっかけになる▼対話的な学習を取り入れやすくなる▼児童生徒の深い学びが促進される▼教科書へのアクセシビリティが改善される▼学習内容の理解が深まる▼習熟度別学習を授業に取り入れやすくなる▼能動的な学習行動を活性化できる▼授業に対する集中力を維持・向上させる▼教員の負担が軽減され、子供と向き合う時間が増える
事例は小学校、中学校、高等学校、特別支援教育まで取り上げた。
文部科学省は今年度、デジタル教科書の効果・影響等に関する実証研究事業、学習者用デジタル教科書の使用による効果・影響等について、紙の教科書を使用する場合と比較する実証研究を実施。研究協力校を選定して次の4点を検証する。▼主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善 ▼教員の負担軽減 ▼健康面への影響 ▼学力向上
特別な配慮を必要とする児童生徒が学習者用デジタル教科書を使用することによる効果・影響に関する調査研究も実施。これらの成果は2020年度中にまとめる予定。
学習者用デジタル教科書(学習者用コンピュータで使用)のメリットは、動画や音声などによる情報の補完や特別の配慮を要する子供に対応できることはもちろんだが、まず教科書紙面上で「書き込みやすい・消しやすい」ことにある。紙の教科書上でもできないわけではないが、書き込みやすさ、消しやすさは、デジタル教科書がはるかに勝る。次に、転送ソフトなどと組み合わせることで「個の場の活用と共有しての場の活用を行き来できる」こと。そして、拡大したり、文章の一部を切り取って配置したりして「思考のメモ帳」になることだ。まさに「読む教科書から、書く教科書・共有する教科書への転換」である。
日常的に1人1台使える学習者用コンピュータの整備、有償なのか、教員が使いこなせるのかなど、課題もあるが、今回のデジタル教科書の法制化が、整備や活用・普及の追い風になることを願っている。
アニメーション、シミュレーション、動画は、文字だけでは理解しにくい学習内容に効果がある。さらに、教科書紙面に紐付いているので、さっと簡単な操作で見ることができ、繰り返しの活用もしやすい。限られた授業時間しかない中で有効だ。
一方、学習の初期段階であれば、多くの情報よりも、良質で絞られた情報からの方が、深く考えられることもある。教員がよく「教科書を閉じなさい」と授業を行うことと似ている。
ICTは情報を取り扱うための道具である。学習に必要な情報を増やすためにも、絞るためにも活用できる。動画など紙の教科書を超える情報を活用するためのみならず、本文を見せずにグラフだけに絞って見せ、考えさせることもできる。
授業の目的やタイミングに応じて、必要な情報量を簡単に調整できる。これこそデジタル教科書を活用するメリットである。
学校教育法の一部改正により、児童生徒が紙の教科書に代えてデジタル教科書をこの4月から利用できるようになった。
第一の利点は学習する際、紙の教科書を読むことに困難がある児童生徒への支援である。拡大や色調、字体の変更等によって1人ひとりの特性に応じた表示が可能になる。合理的配慮の観点から見ても真っ先に導入が進むことを期待したい。
第二にタブレット等の端末の特性を活かすことがある。拡大、ペンによる書き込み、保存等であるが、1人1台環境が前提だ。BYODもしくは3教室に1セット程度の端末が整備された環境で効果的に活用できる。
最後にデジタル教材との連携である。動画やシミュレーション等、デジタルの良さを生かした教材に教科書からアクセスしやすくなる。
学習者用端末、デジタル教科書等の子供の学習環境をどう整えるのか。各自治体が方針を明確にすることが急がれる。
この春から児童が紙の教科書に代えてデジタル教科書を利用できるようになった。デジタル教科書を使うことで、教科書を読みながら行う思考を教科書紙面に書き込む活動が活発になると実践研究から明らかになっている。また、教科書の内容を元にして考えをまとめながら書き上げる活動でも、教科書の内容を容易に再利用できるため、考える時間が増えたり、書き写すことが困難な児童も活動に取り組めたりするようになる。
これらの特長を活かした授業作りをすることで、児童主体の学びが活性化されることが期待できる。加えて、教科書外の教材が教科書に関連付けられることによって、児童が自分の興味や理解度に合わせて教科書による学びから様々な学びへ広げていくことが期待されている。
多くの児童の手元にデジタル教科書が届き、これからの時代に必要な力の獲得に役立てば良いと思っている。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年5月13日号掲載