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教育ICT

データ蓄積・分析でICTの効果を活かす<九州大学基幹教育院・山田政寛准教授>

2019年3月4日
第55回教育委員会対象セミナー・福岡

第55回教育委員会対象セミナー福岡を2月8日、第56回同セミナー名古屋を2月15日に開催。教育委員会や教職員などが参集し、熱心に聴講した。

生徒のつまずきをデータで可視化する仕組みを構築

九州大学基幹教育院・山田政寛准教授

九州大学基幹教育院・山田政寛准教授

山田政寛准教授は主体的・対話的な学びを深めるためのICT活用の最新の動向と今後の可能性について報告した。

Society5・0の社会ではすべてのモノと人がつながり、データや知識が共有され、新たな価値の創造と変革が進む。そしてEdtechは、Society5・0に求められる人材育成の方法論として生まれてきたものであり、これまでの学校の仕組みを再構築する試みでもある。経済産業省が進めている「未来の教室」事業では、これまで当然とされていた教育を前提としない新しい教育の仕組みの創造に取り組んでいる。国民共通のリテラシーをボトムアップで育成することを中心とする視点から、チェンジメーカーとなり得る50センチ革命を起こす「知のイノベーター」育成を幼児教育からスタートすべきであるという目的のもと、様々な実証事業を展開している。例えばプログラミング技術やメディア制作スキルを活用して、地域の課題解決に挑むPBLを展開するなど、従来の学習とは異なる学びに取り組む事業が採択されている。

■一斉授業も対話的に

新学習指導要領において「主体的で対話的な学び」が重視されている。ここで誤解しやすい点は、この流れがなんでもグループワークを取り入れることを推奨していることでも、「伝統的な知識獲得型の一斉授業」を否定しているわけではないという点だ。たとえ講義型であっても学習者の能動性を引き出すことも可能である。さらに1回の授業で「インプット、対話、アウトプット」を必ず実施することが正解であるとは言えず、全体の構成を考えてインプットのみの授業、対話とアウトプットに集中した授業などを配置することも考えられる。どのような意図で設計したのかが重要だ。

知識構成型ジグゾー法は「主体的で対話的な学び」を促す1つの授業デザインであろう。共通の解くべき問を設定して、その問を解決するための部品をそれぞれの生徒が分担して解釈、知識を統合して課題を解決していくという手法だ。この方法を高校で実践してきた教員は「効果があるのはわかるが時間が必要で毎回は難しい」という感想を持っていた。これは多くの教員に共通する感想であると感じている。

その時間を生み出すための授業デザインが「反転授業」である。もともとの発想は、部活動で長期の遠征に行く生徒のために授業内容をポッドキャスティングで配信し、学習支援を行ったところ、思ったほど学力が落ちなかったことから、この方法を応用的に展開してきたものである。たとえば講義内容や教科書の例題レベルの問題を解くことを宿題にし、授業で応用問題などを対話型授業やピアチュータリングで授業展開することやアウトプットの時間を十分に確保することが可能である。

この「知識構成型ジグゾー法」と「反転学習」を組み合わせた実践を高等学校で検証した。この実践では反転授業用の事前学習コンテンツとして、世の中のオープンで質の高い教育素材を活用するものとし、NHKの高校講座オンライン動画を使用した。

ヘルスリテラシー意識の向上を目標とし、高校における感染可能性が高い感染症について調査発表するグループワークを取り入れた。さらに課題の提出はGoogleClassroomを使用。端末はChromebookを使った。本検証では、この手法により知識が長期休暇後でも落ち込まず、定着し、さらにヘルスリテラシー意識は向上したという分析結果を得ることができた。

■ICTの導入効果は「可視化」と「蓄積」

ICTの導入効果として最も期待できることは、「自らの行動の可視化」と「蓄積」にある。教員1人では把握しにくいこと、事前に知っておくことで生徒がアクテイブになる情報を得る手段としてICTは有効だ。ポイントは、どんなデータを獲得・蓄積し、どう分析し、どう活かすかである。研究分野としては「LA=ラーニングアナリティクス」と呼ばれるものだ。

■教科書の不明点に引いたラインを分析

九州大学のM2B(みつば)システムはeポートフォリオシステム「Mahara」、デジタル教科書配信システム「BookRoll」、eラーニングシステム「Moodle」を統合的に活用するもの。これを高等学校の学びでどう活用できるかについて検証した。

高校生はM2Bにログインし、前回の復習として教科書を読み、「意味がわからないところに黄色いマーカー、重要だと思うところに赤いマーカー」を引く。教員は黄色いマーカーが引かれた用語を抜き出し、用語の意味群毎に整理した用語リストを作成。生徒に「クラスのみんながわからない用語リスト」を配付し、用語の意味を調べるグループ学習を展開した。次に「Mahara」にアクセスして3つの設問に回答。次回授業に関するアンケートに回答する。

この仕組みを提供したところ高等学校の教員からは「事前にわからないところが把握できるのでとても便利」「教科書を事前に読んでラインを引く、という程度の事前学習であれば気軽に取り入れられる。映像教材を反転学習に取り入れるのは壁が高い」と好評価を得た。このほか授業の進行に生徒がどの程度ついてきているかリアルタイム分析することも可能。具体的には「スライド教材のどのページをどのくらいの生徒が見ているのか」を分析し、授業進行についてきていない生徒の状況などを把握できる。学習者用デジタル教科書が法制化されたこともあり、ラーニングアナリティクスと組み合わせることで「反転学習用教材」としても大きな可能性を示唆する結果ではないかと考えている。

生徒の学びにおいてボトルネックになっていることが明確になる仕組みの構築と平行展開が求められる。そのためにも教育・学習に携わる関係者全体がラーニングアナリティクス(LA)研究とその実践に取り組むことを望みたい。【講師】九州大学基幹教育院・山田政寛准教授

 

【第55回教育委員会対象セミナー・福岡:2019年2月8日

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年3月4日号掲載

 

  1. 九州大学基幹教育院・山田政寛准教授
  2. 武雄市立武内小学校校長・末次貴浩氏
  3. 鹿児島県総合教育センター 情報教育研修課・木田博氏
  4. 熊本市教育委員会 教育センター指導主事・山本英史氏
  5. 田川市立小中一貫校 猪位金学園 教諭・市川正剛氏
  6. 長崎南山中学校・高等学校企画構想部主任・中島寛氏
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