新学習指導要領に、1人1台の情報端末活用などを始めとするICT環境整備の必要性が明記された。デジタル教科書・教材による効率的な一斉指導や個別学習、特別支援教育向けの活用や学習者用教科書による主体的な学びの実現、クラウド活用とビッグデータ分析による学習評価ツールとしての活用など様々な可能性が拡がっている。
奈良市教育委員会では昨年9月から市内全43小学校の4年生で、日常の単元テストや期末テストの結果をクラウド上でAI的に分析し、児童1人ひとりの能力に適合した教材を提供する「学びなら」事業をスタートしている。
本取組のきっかけは、経験豊富な教員の大量退職に伴い、指導技術の継承が困難になったこと、全国学力・学習状況調査「算数・数学」の結果から、学年が上がるにつれて児童生徒の理解度やモチベーションに課題が見られたことなど。
廣岡氏は「教員に対して授業改善を求めるだけではなく、より具体的な支援を提供したいと考えた。これまでの単元テスト等は、全問正解した児童をさらに伸ばし、苦手な児童の弱点を克服する仕組みとして活用しきれないこともあった。そこでDNPの協力を得てデータに基づく見取りにより指導方法を改善できる仕組み作りに着手した」と語る。
「学びなら」事業では、単元テストをスキャナーでデータ化。PCに取り込んで採点システム「AnswerBoxCreator」で採点したデータをDNP学習クラウド「リアテンダント」にアップロード。結果を分析して翌週には児童の習熟度に応じたレコメンドシート(練習問題)を各人につき3枚戻す。ドリル学習ではなく、4観点に基づいたテスト内容で「B問題」にも対応できる。これを年14回の単元テストと年3回の期末テストで実施。自分に適合した練習問題が届くことから、児童はその結果を毎回楽しみに取り組んでいるという。学期末テストでは、レコメンドシートに取り組んだ児童と取り組んでいない児童では正答率に30ポイント以上の差があった。
学習クラウド「リアテンダント」は、児童ごとの練習問題の提供に加えて、詳細な分析データが提供される点が特徴だ。データ分析には、現代テスト理論(項目反応理論、潜在ランク理論)が用いられており、学級担任にはクラスごとの平均正答率、観点別平均正答率、理解度ランクの分布集計等が一覧で届けられ、児童にはやり直すべき問題の優先順位を含んだ分析結果が届けられる。さらに児童1人ひとりがどの難易度の問題に正答、誤答したかを、個人の理解度ランクを算出し、特性を示唆したデータを入手できる。
「同じ1点でも難易度は異なる。難易度に基づくデータ分析などによって子供の課題がわかり、授業改善や評価、アドバイスに活かすことができる」と報告。今後は、レコメンドシートの効果的な活用の研究に取り組む考えだ。
小柳和喜雄教授(奈良教育大学)は「ICTを学習評価ツールとして活用することで、授業改善のエビデンスを提供しやすくなる」と語る。現在奈良市と共にデータ分析の研究に取り組んでいるが「データを基にどのような児童かを皆で類推し、最後に担任がその児童について発表するという流れで研究しているが、新たな発見が多い。数字の羅列は一見難しそうだが、教員は、回数を重ねるごとにデータの読み取り方がわかり、解釈が早く深くなってくる。データを読み取る力は教員にとっても重要」と語った。
学習クラウド「リアテンダント」は私立小学校でも導入を開始。他自治体でも実証を開始した。現在も実証校を募集中。(5月22日開催・情報教育対応教員全国セミナーより)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2018年6月4日号掲載