新学習指導要領に、1人1台の情報端末活用などを始めとするICT環境整備の必要性が明記された。デジタル教科書・教材による効率的な一斉指導や個別学習、特別支援教育向けの活用や学習者用教科書による主体的な学びの実現、クラウド活用とビッグデータ分析による学習評価ツールとしての活用など様々な可能性が拡がっている。
学校教育法の一部改正により、平成31年度からデジタル教科書を用いた授業が正式に認められる方向だ。
学習者用 光村「国語デジタル教科書」は、デジタル教科書と映像等の資料や様々な分類ツールが一体となったデジタル教材だ。
本教材を約2年間活用している渡辺光輝教諭(お茶の水女子大学附属中学校)は1クラス分30台のタブレットPC等を図書室に常設して1人1台のPC環境で活用している。
「一斉指導で誰かが答えるという授業が減った。良い意味で予想外のことが起こり、主体的・対話的で深い学びや情報活用能力の育成につながった」と話す。
1年説明文「幻の魚は生きていた」(中坊徹次)では、要旨を捉える力をつけるため、教科書本文や資料を元に新聞にまとめる学習を行った。本単元には絶滅危惧種「クニマス」の保全活動をした人のインタビューを収録。これを自分がインタビューしたものと仮定し、映像を見ながら熱心にメモを取る姿が見られた。
段落構成を考える際、生徒は「マイ黒板」「文章構成を考えよう」など考えを整理できる様々なツールを駆使してオリジナリティあふれるまとめを作成。
「キーワードをオリジナルで追加する、独自の色分けで分類するなど1人ひとりが様々な使い方をしていた。機能があると自分の表現や工夫に活用したくなるようだ。予めツールに用意されている学習用語などのキーワードも絶妙で、生徒の思考を刺激していた。特に読み解くことが苦手な生徒にとっては考えを表現する手助けになる。進捗もひと目でわかり、思考が深まっていない生徒をスモールステップで支援できた。ツールによって簡単に書き直せるため試行錯誤も促す。シンプルだが、使ってみるとその良さがわかる」と語る。まとめた内容はグループ内で共有。他の生徒の考えを見ることで、多様なものの見方や考え方を受け入れ、互いの考えを尊重し合う雰囲気も生まれた。
2年評論文「君は『最後の晩餐』を知っているか」(布施英利)では、映像資料に筆者の布施氏が登場。独自のものの見方考え方を披露している。
「『作者はなぜこの言葉を使ったのか』『作者が伝えたかったことは何か』を考え、意見を出し合った後に作者の熱意あふれる語りを聞くことができるので、強烈なインパクトがあり、生徒の関心は一層高まった」という。
古典学習でも威力を発揮。古典は教員の説明が多くなりやすい面があったが、デジタル教材により自分で操作しながら考える場面が増え、活動を設定しやすくなった。
平家物語「扇の的」では、登場人物の関係性や出来事など物語の一連の流れをツールで1枚の図に表現。その図を見ながら場面に自分の解釈に基づくタイトルをつけ、図を見せながらの朗読をタブレットで録音して聞き合った。
解釈が違うとタイトルも朗読の仕方も異なる。どの班が最も分かりやすかったかについて比較する活動も楽しく盛り上がり、記憶に残る学習活動になった。
考えたりまとめたりする活動時間が増えると、1人ひとりの進度は変わる。そこで百人一首のフラッシュカードや古典文の暗唱教材などを時間が余った時などに使っている。生徒は自分のレベルに合わせて学習を進められるので、1人1台で活用できることのメリットを感じている。
これからデジタル教科書や教材を活用する教員へのアドバイスとして「初めてデジタル教材を手にしたとき生徒は、ツールを自由に試し、どのような機能があるのかを把握していた。これは様々な機能を自ら選択して使いこなすことにつながり、後々の学習のオリジナリティの発揮に役立った。1人1台のPC環境があるのならぜひ挑戦してほしい」と語る。今後については「『話す・聞く』ではよい映像資料が豊富。今年はこれを積極的に活用したい」と話した。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2018年6月4日号掲載