11月2日、札幌市内で第103回教育委員会対象セミナーを開催。辰己丈夫教授・放送大学は生成AI利用を、佐藤和紀准教授・信州大学はクラウド活用について講演。北海道教育庁、発寒南小学校、緑が丘中学校はICT活用の取組を報告した。
文部科学省・学校DX戦略アドバイザーを務める朝倉教頭は「1人1台端末が導入されて3年が経ち、本校では間違いなく授業が変わった」と話す。SAMRモデルをもとにこれまでの経緯を報告した。
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本校の活用が進んだ一因として学校長のリーダーシップが大きい。学校運営方針の中にICT活用を最重点項目として位置付けたことで、ICTありきで学校研究が進んだ。この位置付けがないと教科主義になってしまい横断的な取組ができない。
活用イメージの共有も必要だ。中にはPC教室のようなイメージで週2回程度使えばいいと考える教員もいる。鉛筆やノートと同じように毎日使うことをHPなどで発信し保護者も巻き込んだ。
情報カリキュラムを作成し1年生から6年間かけて情報活用能力を育むことも共有。スキル・モラル・リテラシーの3分野で低・中・高学年段階で指導すべき項目とそのつながりを示した。
教員同士が助け合い、組織で対応することも重要。本校は1年生の5月に端末を配布している。パスワード・IDの設定やルールを教える初期指導の時間は、担任を含め総勢7人の教員が協力して指導にあたっている。
端末活用はSAMRモデルを参考に進めた。
まずは紙からデジタルへの置き換えだ。デジタルの方が非効率だと感じても練習のつもりでとにかく使う。例えば、毎朝黒板に書いている子供へのメッセージをClassroomで発信する。すると、1人ひとりとより密な交流ができることを実感していく。最近は係活動の場として活用されるなど子供たちの新しい居場所になっている。
ドリルはデジタルに置き換えやすい。アンケートや健康観察の集計もデジタル化し、保護者の出欠連絡も学校WebからFormsで入力。説明も動画で見ると分かりやすい。ノートは端末カメラで撮影して共有すると評価にも活用できる。ノート代わりに直接端末に書き込む子も増え、デジタル教科書を切り取り、まとめを行っている。ワークシートのデジタル化は一斉指導になりやすく課題でもある。
次の段階としてデジタルでしかできない効果的な活用が始まる。
例えば、2年生国語・作文指導の場面で、文字を書くことにまだ慣れない子でも、端末で入力し何度も編集すれば相当量の文章を書けるようになる。
社会でGoogleEarthを使って空間的な視点で学習したり、新聞作成ソフトを使って同時に書き込んで作成したり、録画・録音すれば音読や演奏を客観視できる。音楽ではスクラッチを使ってリズム伴奏の作曲に取り組んだ。図工の作品鑑賞も一斉に行ってコメントを入力。算数では教室から飛び出して色々なものの長さを測り、教室にいる担任に遠隔で報告。
画面上で考えを共有したり交流したりでき、授業がダイナミックになっていく。夏休みの自由研究もICTを使ってまとめてくる子が増えた。
次のフェーズは単元計画のデザインが変わる。単元全体で捉えて一斉、個別、協働の場面を設定していく。これが教育DXだ。デジタル化ではなく、教育や学校に変容を起こす。
5年社会・沖縄県の学習では、単元全体をジグソー型学習として各自のテーマで調べたことをスライドにし同テーマの子と確認した後、自分のグループに伝達。学習の個性化を図った。その後、実際に沖縄県の小学生と遠隔交流。プログラミングを使ったクイズで札幌市を紹介しFormsで感想をもらった。
明治維新の政策を点数化させたり、難しい新聞記事を要約させたり、ChatGPTも活用。画像生成AIによるポスター作りにも挑戦した。
大阪府と1年間の交流で得た調査結果は学習発表会で発表。発表会は、慣例で劇をする場から学習のまとめを発表・提案する場へと変わった。
組織全体のカリキュラムの再設計が最終段階だ。学校研究に位置づけてICT活用前提の授業づくりに取り組んだ。
形骸化しがちな総合的な学習の時間を教育目標と結びつけて再興。例えば「札幌市は雪と共存することができるか」というテーマのもと子供たち自身で課題を発見し自力調査するPBLで学習を展開。雪の結晶を観察したり、野菜を雪の中に埋めて糖度を調べたり、子供が自然に教科を横断するようになる。総合の学びと教科の学びの横断を意識してカリキュラムマネジメントをしていくことが重要だ。
評価も再定義する。これまでのペーパーテストによる評価は知識・技能の習得の達成度評価が主だった。評価観を転換し、ルーブリックやパフォーマンス評価により思考・判断・表現力を評価。適宜子供に返し、子供自身の評価観も変えていく。
段階を踏みながら地域の学校とも協力して進めていくことで、学校全体ひいては地域全体が変わっていく。
【第103回教育委員会対象セミナー・札幌:2023年11月2日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年12月4日号掲載