11月2日、札幌市内で第103回教育委員会対象セミナーを開催。辰己丈夫教授・放送大学は生成AI利用を、佐藤和紀准教授・信州大学はクラウド活用について講演。北海道教育庁、発寒南小学校、緑が丘中学校はICT活用の取組を報告した。
全国の学校に文科省・学校DX戦略アドバイザーとして支援している佐藤准教授は「教員の働き方と学び方、そして子供の学び方、3つが一体的に変わっていく学校や自治体は活用が上手くいっていると感じている」と話す。
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ICTは授業を改善するものと捉えられているが、まず、教員の日常の業務がクラウド活用により変わらなければならない。
加えて、教員研修、授業研究など、教員の学び方もクラウド活用によって変わらなければ、真に子供の学び方を変えていこうという気にはならない。
教員がクラウドに慣れるためにはクラウド活用を業務に活かし、いつでもどこでも自分のペースやタイミングで仕事ができるようにすることだ。帰宅後も仕事をしなければならないのかという不安の声も聞くが、子育てや介護など教員にもそれぞれ事情や背景がある。教員1人ひとりを主語にする働き方のよさを実感すると、子供1人ひとりを主語にする学びも腑に落ちやすい。
静岡県吉田町の学校では、校務分掌ごとにチャットスペースを作っている。チャットを使うと情報発信のスピードは格段に上がる。起案をチャットに上げれば管理職はコメントやグッドマークですぐに反応でき、決済完了までの時間が短縮される。吉田町の2016年度の時間外勤務時間は1日平均3・5時間だったが、2022年度には2・01時間に削減された。
職員室の黒板に手書きで集約されている予定表や欠席児童数などの情報も、クラウド化すると、いつでもどこでも手元の端末から入力・確認できる。
汎用的なクラウドツールを使った業務効率化の工夫は様々だ。日常業務でクラウドに慣れていくということは、すなわち、普段の校務分掌がICTの研修になるということだ。
学校訪問の際には情報担当教員だけでなく、教務主任や管理職にも同席してほしいと伝えている。若手が抜擢されやすい情報担当教員にはマネジメントの権限がないためだ。働き方を変えていくには情報担当教員と管理職が協力して進める必要がある。
職員室で授業の話をしているだろうか。
日常的に教員同士が授業について話し合うようになれば、それだけで授業研究は進む。
吉田町ではチャットで日々の実践を共有し、助言し合うという教員の学びが日常化している。
重要なのは教員の同僚性である。まず、授業の話を気軽に聞いてくれるようなムードがあるか。ムードが高まると発信が増え、他の教員や他学年の様子のイメージが湧く。イメージが湧くとチャレンジしようという気持ちになる。1、2回研修を受けただけではイメージはできない。1日1枚の写真であってもよい。長期的に少しずつ発信を積み重ねていくことが具体的なイメージにつながる。
発信が進むと、コアで発信する人、アクティブに返事をする人といった構造が出来上がり、対面でも授業の会話が生まれて職員室のムードが良くなる。見ているだけでも参考になるため、全員がアクティブになる必要はないが、発信者の立ち位置や仕掛け人を調整するコーディネーターは必要である。
クラウド上に教員の学びが展開されると実践のイメージが湧き、チャレンジにつながっていく。今までの校内研修では授業の変化まで2・3年かかったが、今は数か月から1年で変わる。
チャットのチェックや発信の習慣化のための工夫も必要だ。
公開研究授業も変わる。端末で子供が個別最適に学んでいると、参観者は何をやっているかがわかりにくい。指導案をクラウドで公開すれば、リアルタイムにコメントもできるようになる。単元計画もリンクですぐに確認できるようにし、座席表から子供の学習画面にアクセスできるような公開研究授業へと変わっていく。
教員の働き方・学び方が変わると授業の発想ややり方も変わる。
自由進度学習や複線型の授業、個別最適な学びをどこから進めればよいかという質問は非常に多い。既に取り組んでいる多くの学校は、「まずは子供に委ねてみよう」から始めている。
最初は学習の手引きをそのまま真似するのでよい。手引き通りに1人ひとりのペースやタイミングで学習を進めてみる。これを繰り返すうちに子供は学習の手順や方法に慣れて習得していく。
次に、子供が自分で学習を計画してみる。計画のリフレクションと修正を繰り返すうちに自分の個性や特徴を自覚し自己調整できるようになる。
教員の仕事はこれまでと大きくは変わらないが、より緻密・高度に子供たちを見ていくことが求められる。具体的には、クラウドで子供の進捗状況をモニタリングして、価値づけし、できていなければ指導し、ずれていれば修正することだ。
【第103回教育委員会対象セミナー・札幌:2023年11月2日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年12月4日号掲載