11月2日、札幌市内で第103回教育委員会対象セミナーを開催。辰己丈夫教授・放送大学は生成AI利用を、佐藤和紀准教授・信州大学はクラウド活用について講演。北海道教育庁、発寒南小学校、緑が丘中学校はICT活用の取組を報告した。
辰己教授は生成AI等を学校で利用する際の心得について、中学3年技術分野と小学2年国語での生成AI利用の2つの事例を交えて講演した。
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7月4日に文科省が公表した「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」では、小学校を含む「全ての学校」を対象にAIを利用した情報活用能力を育むことを示している。ChatGPT等ではルール上使えないとされている年齢も含まれている点に注意したい。
筑波大学附属中学校の多田義男教諭の研究「中学校技術・家庭科(技術分野)における生成AIを活用した課題の考察」を紹介する。
この研究では課題レポートを作成する際に生成AIを使った生徒と使わなかった生徒の違いをテキストマイニングにより分析した。2022年度・2023年度の中学3年生に対し、同一課題を提示して調査。なお22年度は全生徒142人が生成AI未使用だったが、今年度の3年生は95人が使用経験があった。
レポートの語句の出現数を分析すると、生成AI未使用の場合に出現回数の多い「インターネット」「人間」は生成AI使用者のレポートでは出てこない。生成AIを使用した生徒の回答には「自己」が頻出したが、未使用の場合は「自分」が多い。「自己」は、中学3年生にとって日常的ではない言葉である。比較することでAIが生成した文章の特徴が見えてくる。
単語の関係性を可視化する共起ネットワークで言葉の広がりを見てみると、生成AIを使用した生徒は、未使用の生徒と比較して言葉の広がりが限定的であることがわかる。生成AI使ったレポートは言葉や概念がまとまりやすい傾向にあると考えられる。
課題作成後のアンケート調査では、生成AIを使用したほとんどの生徒が満足する回答が得られたと回答。言葉に偏りが出ていることに本人は気付いていない様子が伺える。また、生成AIの活用で満足度の高い生徒は生成回数が多く、プロンプトもより具体的に入力している傾向にあった。レポートの補正や修正として有効に使うことで質の向上が期待できる。
東京学芸大学附属竹早小学校の中村亮太教諭は小学2年生を対象に、生成AIを用いて、オノマトペを生成したり、オノマトペの解釈をさせたりする授業を行った(情報処理学会誌「情報処理」2023年10月号掲載「言語生成AIの授業活用を考える–小学校2年生言語生成AIとオノマトペの授業–」)。
実践では生成AIの利用規約に則り、子供の質問を聞き、教員が入力する様子を見せる方法を用いた。子供たちは「あなたは何歳ですか」「バナナは美味しいですか」などと質問。続けて「ぴにゃぴにゃ」というオノマトペから伝わるイメージを3つ生成AIに回答させる。「言葉からどんなイメージが伝わるか」という学習を生成AIとともに行うことでイメージを広げ、作文や俳句づくりへと授業を展開していく。小学校低学年であっても教員が使って見せることで生成AIを体験することができる。
教育とAIの関わりは、初等中等教育だけではない。文科省は、国内のすべての大学に、データサイエンス・AIの教育を提供することを求めている。小中高でAIを使った教科学習や、AIそのものについて学んだ児童・生徒たちは、大学でさらに理解と活用を進めていくことが期待されている。
メディアリテラシーは情報を読み解く力のことである。リテラル∥文字、リテラシー=識字率、すなわち情報リテラシーは情報社会の識字率と言える。情報を入手し、評価し、加工したり、新しい情報を作り出したり、他者に伝えたりする一連の流れが情報リテラシーだ。
生成AIのモデルの1つに大規模言語モデル(LLM)がある。例えば、スマートフォンの予測変換機能は個人の癖を学習するが、この学習対象をインターネットにある文書全体に展開したものがLLMである、と思えばいいだろう。
私たちは普段、言葉を使って考えるため、言葉で作られたものは「考えている」と錯覚してしまうが、生成AIに意図はない。自然言語の確率でテキストを生成するため、内容が正しいとも限らない。
同様に、生成AIによって作られた動画も既存の動画から学んだものであるから、画質としての自然さはあっても内容が正しいとは限らない。
メディアリテラシーにとっての新たな課題はフェイクだ。人間は写実的なものを信じやすいという認知特性がある。フェイクの実験動画が教材となってしまう危機に瀕している。物理的、化学的、地学的、地理的な法則に則っているか、文章だけでなく画像や動画も鵜呑みにしてはならない時代にきている。
【第103回教育委員会対象セミナー・札幌:2023年11月2日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年12月4日号掲載