教育委員会対象セミナ―を2月14日、福岡市で開催した。全国ICT教育首長協議会の横尾俊彦会長(多久市長)は協議会の活動と多久市の取組、鹿児島市学校ICT推進センターは教育データの利活用、敬愛小学校はBYOD端末の実践とAI活用、福岡市立西陵中学校は教員のICT活用率100%の取組について報告した。当日の講演内容を紹介する。
鹿児島県鹿児島市教育委員会(小学校78校・中学校39校・高等学校3校)の川原省吾指導主事は、学習eポータルと教育データの利活用の取組を報告した。
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鹿児島県では県域アカウントを発行している。児童生徒、教員ともに県内であれば転校・進学・異動しても同じアカウントを使用でき、小学校から高校まで最大12年間の学習ログや学習成果物のデータを蓄積できる。アカウントはMicrosoft365及びGoogle Workspaceと紐づいており、どのOS端末でも使用できる。クラウド環境になり、ツールやサービスの選択の幅が広がった。
本市では様々な学習用クラウドサービスを活用している。これらのアカウントは学習eポータルでシングルサインオン(SSO)で使用できるように設定し、一括管理している。学年や学級、出席番号などの各属性も同期されており、転出入処理や年度更新の作業量を格段に削減できた。
学習eポータルで閲覧できるアプリ・サービスの利用状況を分析し、指導に役立てている。児童生徒別の利用状況からは、その子にとって利用しやすい、あるいは効果的な学び方は何か、どのような頻度でいつ利用しているのかという子供なりの学びの型が見えてくる。教員はそれぞれの最適な学びの方法を検討でき、児童生徒自身も自分の学びをふり返り自己理解を深めるきっかけになる。学習の個性化や指導の個別化につながるものと考えている。
学級別の利用状況からは各学級の取組状況、指導の特徴がわかる。学びが活性化しているクラスや学力の向上が顕著なクラスがどのようなアプリをどれくらい利用しているのか等、これまで可視化できなかった指導技術を共有し、課題解決や指導法の改善に生かすことができる。
若手教員の増加や教員の多忙化により教員間の指導技術の継承が困難になっている。教員別の利用状況から教員それぞれの指導傾向を把握できれば、指導のノウハウを組織化して共有できる。
学校別の利用状況は教育委員会にとって各校の状況把握や支援に役立つ。特徴的な取組をしている学校を把握して、取組やノウハウを市内の学校全体へ広げやすくなる。活用されていないアプリ・サービスがあれば、原因や課題を検討することで、学校支援や施策の見直しにつながる。
本市が導入した学習eポータル(まなびポケット)は保護者との連携機能があり、保護者からの欠席・遅刻の連絡、学校からの早退連絡など双方向に連携でき、教職員間の情報共有もスムーズになった。市内の大規模校では朝の電話連絡が80%も減少したと聞いている。印刷して配布していたお便りのデータ配信やアンケート機能を活用し、手入力の集計作業を削減するなど、教員の業務負担を軽減し、働き方改革にも役立っている。保護者も学校からの文書をいつでもどこでも確認できるようになった。
保護者には児童生徒用とは別にアカウントを発行。子供のアプリの利用時間や利用回数を、家庭の端末やスマートフォンから確認できる。子供の取組の様子を知り、親子の話題作りにも役立つことを期待している。
今年度からデジタルAIドリル「navima」を導入した。全問正解すると金色のトロフィー、7日後に再チャレンジして正解すれば、リボン付き金トロフィーが獲得できるなどのゲーム性がある。誰がどの程度できているか一目で把握でき、定着も確認できる。初回の正答率と最新の正答率を比べると理解度の向上もわかる。これまでは教員が採点、傾向を分析し、補助の問題を印刷して配布していた。AIドリルはこれを補うものだ。誤った問題の傾向によって自動で問題が表示され、児童生徒はそれぞれの習熟に合わせて取り組むことができる。教員は達成状況や誤答傾向を細かに確認、1人ひとりに応じた支援がしやすくなった。
取り組んだ時間も確認できる。これまで勉強時間は子供の自己申告だったが、取り組んだ時間とその効果について具体的な数字で分析でき、学習方法の指導材料になった。
子供の心の健康を把握するため、Googleフォームを活用したアンケートを行っている。このようなデータを定期的、定量的に取得することで、いじめの早期発見につなげたい。これまで場合によっては見逃されてきた変化も、データを把握することで、未然に対応策を考えることができるのではないかと考えている。教職員の経験年数の差を様々なデータの分析によって補うことができるのではないだろうか。
学習eポータルは今後、教育活動を行う際のハブの役割を担う可能性がある。アプリの利用履歴だけでなく、非認知能力に関するデータなど多様なデータをクロス集計し、データの変化が顕著な場合や一定のアルゴリズムに沿って特筆すべき傾向が見られた場合にはレコメンドやアラートが表示される機能の実装などに期待している。教員が培ってきた感覚、経験だけでなく、データ等のエビデンスに基づいた指導に役立てていきたい。
本市における教育データの活用について、テスト結果等で示される定量的な認知能力だけでなく、主体的に学習活動に取り組むなどの定性的な非認知能力を含め、様々なデータを関連付けながら可視化し、児童生徒の学びの状況や特性などを把握した上で、支援に生かしたいと考えている。
【第96回教育委員会対象セミナー・福岡:2023年2月14日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年4月3日号掲載