福岡県久留米市教育委員会(小学校44校・中学校17校・特別支援学校1校)は、2024年度からスタートする新規事業「次期校務環境整備計画」の準備を進めている。宮原知行主任主事は、学校のICT環境全体の最適化に向けた取組について報告した(2月14日開催・第96回教育委員会対象セミナー福岡より)。
「次期校務環境整備計画」では学校現場の負担を軽減しつつ継続的に活用できるよう、現状のICT環境すべてを見直す「全体最適化」を目指す。
全体最適化のためには「ネットワーク環境」「端末環境」「セキュリティ環境」「校務支援システム」すべてを同時に検討することが必要であると考えている。部分的な最適化では実現が難しいためだ。
まず現場の課題を細かく洗い出し、課題解決に最適なICT環境は何かを明確にした上で整備する。
教職員不足は課題の1つであり、現状では担当業務を減らすことも困難で、業務負担が増加している。子供たちと向き合う時間の確保が難しい。そこでこれらの課題を本整備で解決したいと考えている。
例えばこれまで手作業だったアンケートの回収・集計業務を自動化して業務を軽減する。また、学習データを蓄積し、そのデータを分析することで、個々の児童生徒に合った学習支援を行うなどである。
ICT活用を定着させるには、まずは現場で便利に使えるものを導入すること、継続して運用できるよう運用・保守を簡素化すること。低コストで構築できる点も重要だ。
さらに学習系・校務系の環境を統合することで、データ利活用を促進し、データ駆動型教育による質の向上にも取り組みたい。
現在は、校務系と学習系のネットワークに分離している。
学習系ネットワークはツリー型のネットワーク構成で最新の通信機器を導入しており、クラス全員が同時にネット接続可能だ。ブレイクアウト構成で、学校からインターネットに直接アクセスしており、通信速度も速い。トラブルの際も、クラウド上の管理システムからメールで市の管理者へ連絡が届き、迅速に状況把握・対応できる。
一方、校務系ネットワークは通信機器が古く、データセンターを経由するので通信速度が遅いという課題がある。
そこで次期校務環境は、学習系ネットワークに校務系ネットワークを統合する方向だ。
現在2台使用している教職員用の情報端末も、校務系(WindowsOS)と学習系(ChromeOS)の2台使用から、校務系と学習系共用の1台使用に統合を進めたいと考えている。
情報端末の選択は、教員にとって使いやすいことが大前提だ。校務で使用する上で、十分な機能があることは当然だが、これまでに作成したデータ資産を、継続して活用できるように、WindowsOSを想定している。
安全に運用するには、必要なセキュリティ環境を追加する必要がある。システムと使用端末の統合と同時に、ゼロトラストを想定したセキュリティ対策を講じてランサムウェアなどのウイルスによる被害防止や端末紛失リスク、ケアレスミスによる情報漏えいが起きにくい仕組みとする。
児童生徒の成績や名簿等のデータは学習系環境に移動できないようにする。また、校務支援システムにアクセスする場合は、認証によるアクセス制限を設けることで安全性を確保。本人以外がアクセスできないように、なりすましを防止する多要素認証の整備を進める。多要素認証については様々な仕組みがあるが、顔認証が良いのではないかと考えている。
個人情報等の漏えいを防止する資産管理ソフトも導入予定だ。
ゼロトラストを前提としたセキュリティ環境を構築することで、学校や自宅から安全にアクセスでき、安全で効率よく活用できると考えている。
ネットワーク環境の構築や維持が、1つのシステムに統合されることで、保守・運用面からもコスト削減につながる。
校務支援システムの機能追加は、学校現場の意見や要望に可能な限り対応する方向だ。業務削減につながるもの、必要だが不足しているものがある。まずは学校現場から要望が出ている文書管理やグループウェア機能の追加を予定している。
今後必要になってくる機能として、データの一元管理を可能にする機能や、入力ミス・漏れなどが容易に把握できるもの、保護者への連絡や欠席連絡など、教職員の業務負担を軽減できるものも、可能な限り取り入れていく。
次期校務環境の整備を進めている上で重要なことは、環境整備を実行する前に、実現したい環境の全体像を十分検討して「全体最適化」を図る必要があると考えている。
ネットワーク構成やセキュリティの仕組みは環境構築後の微修正や改築は難しい。設計段階で十分な検討が必要だ。ビジョンを共有し、共通認識をもって方針を立てることが重要である。
【第96回教育委員会対象セミナー・福岡:2023年2月14日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年3月6日号掲載