教育委員会対象セミナ―を2月14日、福岡市で開催した。全国ICT教育首長協議会の横尾俊彦会長(多久市長)は協議会の活動と多久市の取組、鹿児島市学校ICT推進センターは教育データの利活用、敬愛小学校はBYOD端末の実践とAI活用、福岡市立西陵中学校は教員のICT活用率100%の取組について報告した。当日の講演内容を紹介する。
佐賀県多久市長、全国ICT教育首長協議会会長の横尾俊彦氏は、多久市の取組と協議会の活動について報告した。
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本市は様々な教育改革に取り組んできた。2013年に小学校7校・中学校3校を同時に統廃合し3校の小中一貫校を開校した。現在は義務教育学校として9年間一貫した教育を行いながら、コミュニティ・スクールの推進や多久聖廟を活かした論語教育にも取り組んでいる。
何よりも重視したのは教育の中身を充実させること。そのためにはICT教育が必要と考え、産官の知恵を借りながらICT教育環境を整備。限りある予算を有効活用するため、国の実証事業や民間事業者のプロジェクトに参画し、多久市をフィールドに実証実験として取り組んだ。デジタルドリルの実証実験では、子供たちが各々のペースで問題に取り組み個別最適な学びが行われていた。朝の時間を活用して問題を解くことで集中力が向上し、よいコンディションで授業がスタートできることもわかった。
教員の働き方改革にも取り組んでいる。19年度にパブリッククラウドを利用して学習系と校務系のシステムをフルクラウド化。教員がテレワークできるようになった。家で調整しながら作業できるので、特に介護や育児で時間的に制約がある教員から喜ばれた。
これにより17年度は49・39時間だった時間外勤務時間が、20年度には30・26時間に減少。職種別でも概ね減少傾向にある。データの可視化により教頭の負荷が大きいこともわかった。今後の展開としてマネジメント改革が重要と考えている。
海外視察を経て世界のICT教育を目の当たりにし、本市だけでなく全国で10年20年先を見据えて取り組むべきとの思いを強くした。IT人材の社会的ニーズもあり、教育委員会だけでなく首長部局も積極的に関わっていく必要があると考え、16年に「全国ICT教育首長協議会」を設立した。
当初、まず目指したのは1人1台端末環境の整備である。ICT教育に関する自治体の悩みを調査し課題を収集、分析して文部科学大臣に政策提案を行った。GIGAスクール構想実現後は活用を拡げる活動を行っている。
自治体への働きかけとして教育のICT化が進まない原因のチェックリストを作成、解決へのアドバイスも併せて配布。ICT環境整備計画や実行マニュアルも作成し、自治体の予算確保や計画立案を支援している。
協議会の主な活動は8つ。毎年行われる「全国ICT教育首長サミット」では先進地域の首長が未来のICT教育について議論し、文部科学大臣に提言。地域活性化に向け「地域首長サミット」も開催している。これらの対面イベントでは最新ICT機器を展示して、参加者が実機を体験し現場での活用イメージを持てるようにしている。「日本ICT教育アワード」はよい取組を表彰して好事例を発信。格差解消も狙いの1つだ。昨年開始した「オンライン研修会」は各省庁の行政施策説明や有識者の講演、先進自治体の取組を紹介。積極的にICT教育に取り組む「先進首長インタビュー」も企画展開している。情報共有の場である「メールマガジン」では先進事例などインデックスとしての機能を重視。企業とのモデル事業の情報も発信している。
次年度以降に小中学生対象の「日本プレゼンテーションコンテスト」の開催を検討中だ。
ICT教育の推進には周囲の理解を図り、巻き込んでいく必要がある。1人1台端末を活用している現場を実際に見たり、体験したりしてもらうことで理解が進む。首長や教育長にも是非見てもらってほしい。
保護者の理解が進まないという課題に対しては、端末の持ち帰りを推奨したい。保護者の関心を引き出し、子供たちの活用能力も向上する。本市では当初から端末を持ち帰るようにしており、コロナ禍のオンライン授業もスムーズに行えた。
GIGAスクール構想により財政の差に拠らず1人1台端末環境を同時にスタートできたが、自治体の活用度は様々だろう。教育長、教育委員会はもちろん、校長のリーダーシップが重要だ。校長自身はICTに堪能でなくてもよいが、教育の充実に対する熱意を持ち、周囲にサポートや知恵を求め、チームで課題を打破していく姿勢が必要だ。
ICTは「I Create Tomorrow」だと考えている。子供たちに、「僕が、私が未来をつくる」と思ってもらえるようなICT教育を進めていきたい。新時代にふさわしい教育の創造が我々の大きなミッションだ。世界のトレンドを知り、GIGAスクール構想で実現した1人1台端末環境を未来志向で活用するべく、知恵を出し合っていく必要がある。子供たちそれぞれの個性や天分を伸ばし、Well-beingな生き方を可能にするICT教育の推進に取り組んでいく。
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教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年4月3日号掲載