文部科学省調査によると、学習者用デジタル教科書の発行状況は2020年度の小学校は94%、2021年度の中学校は95%である。文部科学省では、学習者用デジタル教科書の普及とパブリッククラウドによる配信は、個人の学びやデータ収集・分析による学びの充実、障害等による学習上の困難の低減のために重要な要素であると考え、「学習者用デジタル教科書普及促進事業」を次年度に実施する方向で準備を進めている。それに向けて各教科書会社では、クラウドに対応した配信プラットフォームの仕組みを用意している。採用しているプラットフォームによりビューアの詳細にはそれぞれ特徴があることから、配信プラットフォームを提供している各社に特徴と今後の計画を聞いた。
「みらいスクールプラットフォーム」は、2020年度から富士ソフトが提供を開始したデジタル教科書・教材配信プラットフォーム。本プラットフォームで今年度からデジタル教科書・教材を提供しているのは、教育出版、学校図書、学研、教育同人社、廣済堂あかつき。次年度から、大日本図書(中学校デジタル教科書)、日本文教出版(中学校デジタル教科書・美術)。高等学校デジタル教科書・教材についても複数社で準備中。「みらいスクールプラットフォーム」の特徴について富士ソフト担当者に聞いた。
「みらいスクールプラットフォーム」は、教科書会社・教材会社に対し、デジタル教科書・教材の作成からサーバ配信までサポートする。
本プラットフォームを採用した各社は、画像形式の紙面データに、オーサリングツールで紙面の拡大等の各種動作の貼り付けや教材の埋め込みができるので、だれにでも簡単にデジタル教科書・教材が作成でき、作成した教科書・教材は、アプリ版(インストール版・Windowsのみ)、ブラウザ版(サーバ版及びエッジサーバ版/3OS対応)、フルクラウド版(3OS対応)いずれの形式でも提供でき、どのブラウザでも閲覧できる(IEは読み上げ機能非対応)。
フルクラウド版とエッジサーバ版ではユーザ管理機能、教科書・教材管理機能、アクセス管理機能を提供。各校の様々なIDとのシングルサインオンは順次対応予定。学習履歴・操作ログ保存もできるので、デジタル教科書を閉じても自動的に書き込みは残る。
本プラットフォームの強みは、大規模クラウド配信の実績を持つ点。富士ソフトは自社のデータセンターを全国5か所に持つほか、AWSやMSのAzureを利用した大規模配信の実績があり、必要に応じて最適なシステムを構築・提供している。
フルクラウド版では、ユーザが教育委員会サーバや学校サーバ等を経由せず直接「みらいスクールプラットフォーム」にアクセスして閲覧することになる。担当者によると「これまでの実績から大規模クラウドの設計ノウハウを蓄積しており、各教科書会社のニーズに最適な提案ができる。学習者用デジタル教科書に一斉に数百万単位のアクセスがあった場合も安定して接続できるように準備を進めている」という。
みらいスクールプラットフォームを採用している各社のツールは、ページめくり、拡大縮小、ペンツール等で、ほぼ共通。各社で教科等によりツールの削除・追加などが行われている。ツールバーは左右いずれかに配置できる。
特別支援機能も共通。リフロー画面上で総ルビ、白黒反転、背景色の選択、行間調整、文字の大きさ、分かち書きを変更できる。読み上げ機能は機械音声をデフォルトで提供。
オーサリングツールは、各教科書会社がドラッグ&ドロップ感覚で、紙面の拡大や音声・画像の再生等の動作を貼り付けたり、各社が保有しているHTML5対応の教材を追加したりしてデジタル教科書・教材を作成できるもの。特別な知識がなくてもデジタル教科書・教材データの更新等、各教科書会社内での対応が可能。迅速な更新が期待できる。
教育出版=当初活用していた独自開発ビューアをFlashベースからHTMLベースに変更する必要があり、本プラットフォームを2020年度小学校デジタル教科書から採用。指導者用ビューアと学習者用ビューアが同じインタフェースで、シンプルで利用者にわかりやすい。
富士ソフトは学校向け商品「みらいスクールステーション」を開発・販売し、学校教育分野の知見を有しており、独立系の大手SIerとして開発・保守の品質、サービスの継続性について信頼できた。専用オーサリングツールで制作コストも削減できる。
大日本図書=2021年度版中学校デジタル教科書から採用。最大の理由はフルクラウド環境に対応している点。オーサリングツールでリフローデータの制作などに比較的手間がかからない。
学校図書=2020年度版小学校デジタル教科書にビューア部分を採用。クラウド配信の仕組みは別途用意している。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年12月7日号掲載