教育委員会や学校の整備担当者を対象にしている「教育委員会対象セミナーICT機器の整備と活用・研修」が、12月4日東京で開催された。次回は2月6日に福岡で、2月13日に名古屋で開催する。
福島県新地町教育委員会は文部科学省の「新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業」「エビデンスに基づいた学校教育の改善に向けた実証事業」、総務省「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」に取り組んでおり、2019年度は3年間の取組の最終年度だ。その成果を千葉正俊指導主事が語った。
東日本大震災から9年が経とうとしている。ICTを通して復興に向けた人材を育成するため、さらに学校現場における教員の働き方改革、子供とのふれ合いの時間の確保などを目標に掲げ、ICT活用に取り組んできた。
本事業では、校務系システムと授業・学習系システムに蓄積されたデータを連携させることで、効果的な学習指導や教員の授業改善に取り組んでいる。
最終的にデータを可視化することで、学校全体、学級全体、児童生徒の状況を把握。データを活用し、管理職はエビデンスに基づく学校経営方針を踏まえた指導助言にあたる。また、担任は個別の状況に応じた学習指導を行うことができる。
校務系データは児童生徒の属性の情報、指導計画情報、出欠・遅刻・早退の情報、保健室利用状況や教育相談、単元テストや定期考査の結果など。授業・学習系データは学習記録情報として、デジタルドリルの取組や、授業における自己評価を蓄積。板書の記録も残し、授業のふり返りに使っている。
授業前に教員は蓄積されたデータから、児童生徒の学習状況を捉えて授業の計画を立てる。児童生徒は、これまでの学習履歴からふり返りを行う。
授業中、教員は発言マップから児童生徒の学びの状況をリアルタイムに把握。授業後は児童生徒の自己評価を把握し、適切な自己評価能力を育てるよう支援する。また、自らの指導記録を整理することで指導方法の改善に役立てることもできる。
本実証では、小学校3校、中学校1校で各3つの取組を実施していたが、最終年度である2019年度は枠組みにとらわれない形で進めている。
「個々の学習活動の蓄積・分析を通じた学習活動」の取組では、ワードクラウド機能(頻出単語を複数選出し、頻度に応じて大きさや色、フォントなどを変えて図解する機能)とeポートフォリオを活用している。
導入型反転授業では、児童が事前に疑問点や調べたいことなどを家庭で入力。教員はワードクラウド機能を使って、注目させたい言葉を誰が使っているか、児童がどの点に注目しているかを事前に把握して授業に臨んでいる。
eポートフォリオでは、スクールタクトを活用。道徳では心情円を共有する学習を継続して行っており、個人の考えの変化が分かる。電子黒板に児童の考えを表示すると、友達に考えを聞きに行くなど、児童同士の交流が生まれている。
「不安を抱える児童の早期発見・支援」の取組では、協働学習支援ツール(発言マップ)にアンケートツール「WEBQU」の結果を反映させた。図工で作品を鑑賞後、作品に対するコメント数を確認。WEBQUの結果を連携させ、コメント数が少ない児童に対して、個別指導や全体指導を行った。その結果、要支援児童へのコメントが増え、クラス全体の交流も深まった。
「生徒指導上の問題の早期発見・早期解決」の取組は、保護者にSNS(まなびポケット)のアカウントを配布し、リアルタイムで意見交流を図った。
最初に保護者会を開き、登録方法と使い方を説明。授業の様子やクラスの行事などをアップすることで、保護者とのつながりを持つことができた。担任だけでは解決できない問題も、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、養護教諭などと情報を共有して指導にあたっている。
不登校児童への取組では、eライブラリのドリル学習で学習支援を行った。2019年7月の利用回数は約200回にのぼり、その後も継続的に利用している。教員に分からないことを質問するため登校するなど、学習への不安が解消されたこともあり、欠席の減少につながった。
全国学力・学習状況調査において、2018年度は本実証に取り組む前と比べて、「話すこと・聞くこと」の領域、出題形式では記述式で全国平均を上回った。
これはICTを利用して、自分の考えを相手に伝える活動を実践していることが理由と考えられる。
教育データを可視化することで、学習指導や生徒指導、家庭学習、いじめ防止、不登校防止、教員の指導力向上などが充実した。今後は学校に関わる多くの人とデータを共有し、教育効果を最大化するチーム学校の実現を目指す。【講師】新地町教育委員会 指導主事・千葉正俊氏
【第63回教育委員会対象セミナー・東京:2019年12月4日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年2月3日号掲載