教育委員会や学校の整備担当者を対象にしている「教育委員会対象セミナーICT機器の整備と活用・研修」が、12月4日東京で開催された。次回は2月6日に福岡で、2月13日に名古屋で開催する。
全県立高144校(中等教育学校2校を含む)にBYOD専用回線として民間の光インターネット回線により無線LAN環境を構築し、個人所有のスマートフォンの授業活用を可能にした神奈川県が、学習者用PCとしてChromebookを各校に82台導入した。その導入の経緯を柴田功ICT推進担当課長が語った。また、県立生田高等学校の小原美枝総括教諭が学校活用の様子を報告した。
神奈川県は学校数が多く、予算確保が課題である。2018年3月の時点で、教育用PC1台あたりの児童生徒数は約8人に1台で全国平均を大きく下回っていた。
一方で、生徒のスマートフォンの所有率は極めて高い。生徒対象の調査では高校生の96%がスマホを所有しており、学校対象の調査では99・7%の高校がスマホの持ち込みを認めている。そこで授業でのスマホ活用に向け、県全域にNUROの光インターネット回線が敷かれていることから、持ち込み用専用回線としてBYOD専用の無線LANを導入し、一定の成果を上げている。
授業でのスマホ活用は学校判断に任せており、個々の学校がガイドラインを作成して対応している。スマホ持ち込みにより学習規律が乱れるなど、重大な問題は起こっていない。特別に生徒指導が増えたということもない。
次に着手したのが学習者用PC整備だ。
これまで県が導入してきたタブレット端末の仕様を見直し、2019年8月、全県立高校と全県立中等教育学校に1万1726台のChromebookを導入し、2022年度までに3クラスに1クラス分の配備を目指す。
スマホの操作に似ていて、機能がシンプルなChromebookの活用はスムーズに進んでおり、生徒にも好評だ。
これまで教育委員会ネットワークに集約していたインターネット回線も、新たにBYOD専用回線を各校が引くことで、速度も保障された。
学習活動用に、クラウドサービス「G Suite」も導入。全県立高校と全県立中等教育学校の教員と生徒約14万人にGoogleアカウントを付与した。
教育委員会がアカウントを作成することは困難と考え、アカウントの作成はルールを示して学校が行うこととした。学校番号を入力し、そこから入学年度などを入力する。「eG Class」 というソフトウェアで、スプレッドシートのデータを流し込んで作成している。
校務用のクラウドはOffice365 を使用。校務用と生徒用でネットワークを切り分けているように、校務用はOffice365、学習用はG Suite を使用している。
Chromebookと、G Suite の研修は、教育委員会としてこれまでに20回以上行ってきた。
特に有効だったのが校長を対象とした研修だ。授業改善の方向性を、まず校長が理解することが大事であると感じている。
将来的に生徒用ネットワークは、すべてBYOD回線とし、校務用のみ教育委員会ネットワークで管理し、生徒が使うネットワークはインターネットに直行するだけの回線とすることも考えている。これが実現すれば、BYOD専用回線は民間の回線のため、さらにコストダウンにつながる。
神奈川県立生田高等学校では、2018年度からBYOD導入モデル事業校として、他の学校より1年早くBYODに取り組んできた。
BYOD導入に向けて、校内組織を見直した。
ICTを活用した授業改善や研究授業、校内研修などは研究開発グループが実施。ICTの危機管理やネットワーク管理は管理運営グループが担当。また、研究開発グループの中に情報利活用推進委員会を設け、ガイドラインや各教科の活用事例を作成した。
作成したルールを周知・徹底するため、4月に1年生を対象としたICTオリエンテーションを実施。また年2回の携帯電話教室を開催している。保護者には、入学前の学校説明会や入学予定者説明会で、BYODについて説明している。
BYODを導入して、授業が変わった点は、次の3つ。①生徒同士、教員と生徒のやり取りが増加、②生徒同士の学び合いが増加、③授業に限らず、部活動や委員会などICT機器を活用した教育活動が増加。
生徒個人の意見や解答を教員に提出する際は、生徒のスマホを使う。また、英語のスピーキングを録音して提出する際や、アンケートに回答する際もスマホを使用する。
iPadやChromebookは、ロイロノートのシンキングツールや「G Suite」のスプレッドシート、発表用スライドの資料を作成する際などに使用している。
調査によると、約9割の生徒が、PCやスマホを使った学習について肯定的に回答した。また、約7割の生徒が「ICTを利活用した方が、授業に興味を持て積極的に授業を受けられた」と考えている。
BYODを1年間、導入した成果として、授業など様々な場面で、生徒がICTを活用するようになった。また、積極的に意見を述べるなど生徒同士の学び合いが増え、ICT機器を文房具のように自然と扱うようになった。【講師】神奈川県教育委員会 総務室ICT推進担当課長・柴田功氏、神奈川県立生田高等学校 総括教諭・小原美枝氏
【第63回教育委員会対象セミナー・東京:2019年12月4日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年2月3日号掲載