教育家庭新聞は12月4日、第63回教育委員会対象セミナーを開催。教育委員会や学校教員など約100名が参集した。当日は6名の講師がICTに係る事例や整備について報告。文部科学省教育情報セキュリティ対策推進チーム副主査の髙橋邦夫氏は、「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」改訂の方向性やそれを踏まえた学校の情報化について語った。
Society5・0到来に向けた準備が求められている。政府が言う5番目の社会とは、IoTにより情報が向こうからやってくる「超スマート社会」だ。一方で日本の学校の現状は、Society4・0(情報社会)未満である。これは、求める情報に「たどり着けない」状態だ。ここに日本の学校の課題がある。
今後、10~20年の間に半数近くの仕事が自動化され、人工知能の発展により予測不可能な未来が到来する。その時に必要とされるのは、想定外のことにも対応できる力、主体的に考える力である。そこで新学習指導要領では、そうした力を身につける内容になり、ICTは、教育をより高度で豊かなものにするツールとして位置付けられている。
教育現場は様々な問題を抱えている。例えば外国人労働者の増加に伴い、クラスの半数が外国籍の子供というケースも増えている。そうした現場で教員を助けるツールとして、ICTは有効だ。ICTにより、多言語に対応し、各自の学習速度に応じた学習も可能になるだろう。
しかし、日本はICT整備が遅れており、導入されても授業で使わないという過去の歴史もある。導入後に活用されることを踏まえた整備が求められている
地方財政措置では、ICT関連で、2018年から単年度1805億円が5年間措置されている。標準的な1校当たりの財政措置額は小学校622万円、中学校595万円。この予算が使われない理由の1つに地方財政措置の性質がある。学校のICTだけでなく、道路の補修や橋の補強なども含めた総額を国に要求し、満額が交付されないため、要求した金額のどの程度がICT整備資金分であるかが明確ではない。
また、教育委員会内においても、クーラーの導入や耐震化など様々な設備の充実を求める声があり、ICTが後回しになる自治体もある。
そうした中、学校の働き方改革がICT整備の追い風となりそうだ。地方議会でも教員の過重労働が問題となっており、教員の負担を減らすツールとして校務支援システムなどによる効率化が期待されている。その際は、都道府県などが主導となって校務支援システムの整備を進めてほしい。教員が異動となり一から新しい仕組みを覚える必要がないように、地域で同じシステムを導入することが重要だ。
年末に公表された経済対策によるICT環境整備予算も注目されている。用途が決まっている補助金も大いに活用すべきであるが、地方財政措置は、内部で予算さえ確保できれば、細かい書類申請などが不要で事務的に楽な面もある。地方財政措置の獲得を教育委員会内で再度挑戦してみてほしい。
県立高等学校で情報漏えい事件が発生した背景もあり、「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を2017年に策定し、機微情報が漏えいしない仕組みを考えた。
当時、職員室で使っているPCを教室に持ち込んで授業を行うなど、校務系と学習系の活用が混在している学校もあり、守るべき機微情報は、校務系に入れ、生徒が使用する学習系からは分離することを求めた。ガイドラインの基本方針は首長部局が策定したものとし、その上で、児童生徒の利用を想定した学校現場ならではの対策基準を策定することとした。
大事なことは、学校が保有する情報資産を把握することにある。学籍関連、生徒指導関連、成績関連など多数ある情報を、どれが漏えいしてはいけない情報で、どれが公表しても問題ない情報かを分類し、その上で漏洩してはいけない情報を、どうやって守るかを考えることだ。
2019年3月、「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策」の中で、ガイドラインの見直しが発表された。
ガイドラインの策定により、教職員の情報セキュリティに関する意識は高まった。一方で、ガイドラインに書かれている一言一句を、すべて守ることが目的化する傾向もみられた。そこでガイドラインを見直し、主体的に考えて判断するという表現とする方向だ。
ガイドライン作成時は、パブリッククラウドを禁止してはいないが、積極的な活用は勧めておらず、教育委員会が活用に踏み切りにくいという背景があった。そこで、より安価で、かつ柔軟な環境を構築できるなどパブリッククラウドを活用することのメリットを示し、使用する際の注意点や、選定方法など留意点を記載する。
ガイドラインで最も読み込んでいただきたいのは、現行の第1章だ。
そこには6つの基本的な考え方が書かれている。①組織体制を確立すること、②児童生徒による機微情報へのアクセスリスクへの対応を行うこと、③インターネット経由による標的型攻撃などのリスクへの対応を行うこと、④教育現場の実態を踏まえた情報セキュリティ対策を確立させること、⑤教職員の情報セキュリティに関する意識の醸成を図ること、⑥教職員の業務的負担軽減及びICTを活用した多様な学習の実現を図ること。この6つの基本的考え方を踏まえ、これまで以上に各教育委員会が主体的に取り組むこととしている。
情報セキュリティポリシーは、教育の情報化を妨げるものであってはならない。ガイドラインに沿ってセキュリティポリシーを作成すれば教員も生徒も安心してICTを使うことができる、自分たちの自治体や学校のネットワークのあり方はこれで良いと、胸をはって言えるものを作成してほしいと考えている。【講師】文部科学省教育情報セキュリティ対策推進チーム副主査(KUコンサルティング代表社員)・髙橋邦夫氏
【第63回教育委員会対象セミナー・東京:2019年12月4日】
教育家庭新聞 新春特別号 2020年1月1日号掲載