茨城県つくば市では「21世紀型スキルを育むICT教育」を目標に市内すべての小・中学校に均等にICT環境を整備している。創立145周年を迎えたつくば市立谷田部小学校(鴻巣哲校長・茨城県)でも継続的に指導者用デジタル教科書(国語、算数、理科、社会、英語、書写)を活用している。6年生社会の授業を取材した。授業者は小故島怜樹教諭。
この日の課題は「ペリーの開国の要求に幕府はどんな対応をしたのか」。前時のふり返りとして、小故島教諭は「指導者用デジタル教科書 新しい社会」(東京書籍)(以下、デジタル教科書)で教科書本文の一部を拡大提示。この日の課題につながるポイントを赤いラインで示した。
諸外国が次々に訪れ、開国を迫るなか、日本は開国すべきか否か--デジタル教科書から動画資料「黒船来航」を全員で視聴してから各自で考え、その可否と理由をノートに記載し、4人グループで自分の意見を伝え合った。自分の考えを伝え合う際には立って活動し、伝え終わったら座る、というルールで、話し合い活動にメリハリが生まれていた。意見を伝え合った後、自分の考えについて追加でノートに記入する児童もいる。
次に、全体で挙手して意見を発表し合った。
開国後の日本の様子について、教科書の該当する記述を皆で一斉に読み上げる。教科書を一斉に読む際には、読む箇所に迷わないよう、小故島教諭は電子黒板に提示したデジタル教科書の該当部分の地色をブルー表示して示した。中には教科書に線を引きながら読む児童もいた。
新任で同校に赴任した小故島教諭は、今年で教員4年目だ。大学時代はデジタル活用の経験はなく、デジタル教科書の活用は同校にきてから始めた。
同校では高学年において緩やかな教科担任制を採用しており、小故島教諭は今年度、社会科を担当。社会科では授業の冒頭でデジタル教科書やデジタル教材を活用することが多いという。
気候の学習では、東日本と西日本の降水量と気温のグラフを要素別に1つひとつ提示し、その違いに気付かせて学習課題につなげた。平安時代の学習では、その時代のすべての天皇の絵を見せ、天皇が赤子も含めて幅広い年代であることに疑問を持たせ、藤原氏の摂関政治のシステムとしての有用性や価値に気付かせることができた。
「一部の情報を隠して系統的な情報を示すことで、児童の興味関心を高め、疑問を持たせ、考えることができる点がデジタル教科書などICTのメリット」と話す。教科書を読み込んで線を引くなどの個別活動を重視したいことから、高学年であっても一斉に教科書を読む活動も行っている。その際にもデジタル教科書で注目してほしい所をすぐに指示できる。
時には想定したように子供の話し合いが深まらないこともある。そんな場合も、デジタル教科書があると、軌道修正しやすく、最低限の学びの質を保証できる。さらに次の時間での仕切り直しもしやすいという。
「話し合いを活性化して深い学びにつなげるためには、児童が自分の考えをしっかり持てることが重要。そのためにデジタル教科書の動画や資料を活用している。児童の思考を刺激してより深い話し合いを進めるために重要なのは、提示のタイミングと学習課題であると感じている。さらに協働的な学習にもICTを活用してより深い学びにつなげたい」と話した。
つくば市では校務用PCに各教科の指導者用デジタル教科書をインストールして授業に活用している。谷田部小学校では、電子黒板は6年生全クラスに整備。空き教室に電子黒板を設置し、活用する際にその部屋に行く学年や、学年で1台共有している学年など、校舎の形状に合わせて工夫して活用している。
同校のICT担当である櫻井泰二教諭はデジタル教科書のメリットについて「拡大して見せる、隠して考えさせるなどで授業のポイントを示しやすい。動画やシミュレーションなど、教員にとって必要な教材をすぐに提示できる。自作の紙教材だと黒板を使うスペースが狭くなることもあるが、デジタル教科書や教材を電子黒板上で表示することで黒板スペースを十分に活用できる。これらのメリットを活かす授業デザインを考えることが教員の役割」と話す。
鴻巣校長は、「デジタル教科書が各教科あるので、一斉提示による指導が浸透している。デジタル教科書の一部を拡大提示して児童の思考を促したり話し合いを活性化したりする活用をさらに進め、子供の考えをタブレットPCなどで共有しながら、より多くの意見や考えに触れることで、対話的で深い学びを実現する活用を積極的に導入していきたい」と語った。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年10月14日号掲載