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教育ICT

学習者用デジタル教科書と学力向上 子供の力は1年で伸びる

2019年10月14日
デジタル教科書教材特集
学習者用デジタル教科書・教材を1人1台の学習者用端末で活用。根拠を示しやすく話し合いが活性化した

学習者用デジタル教科書・教材を1人1台の学習者用端末で活用。根拠を示しやすく話し合いが活性化した

東京学芸大学加藤直樹研究室では都内公立小学校6年の1クラスにおいて国語科学習者用デジタル教科書+教材(光村図書)活用の実践研究を続けており、使用した学級と使用していない学級との標準学力検査(以下、CRT)の結果を比較分析した。その結果、使用した学級と使用しなかった学級の児童の点数に有意差があることが明らかになった。

数か月の活用で予想以上の成果

谷川航教諭

谷川航教諭

都内公立小学校で学習者用デジタル教科書・教材活用を1人1台の端末で実践したのが、現在加藤研究室に院生として所属している谷川航教諭だ。

谷川教諭は「授業を積極的に変えようとしたわけではないが、使い始めて数か月で顕著な変化が現れ、予想以上に成績が上がった。この結果を知れば、学習者用デジタル教科書・教材を使いたいと考える教員は増えるのではないか」と語る。

授業では学習者デジタル教科書・教材を次のように活用した。▼学習課題に対して、児童は考えの根拠となる箇所にラインマーキングを行い、それをもとにノートに考えをまとめる ▼グループで自分の考えとその根拠となる表現を紹介し合う ▼デジタル教材「マイ黒板」(児童が教科書の本文を指でなぞると、その語句や文が短冊として抜き出され、自由に配置できる)で、グループで1つの考えにまとめる ▼話し合った結果をクラスに向けて発表する

「これらの活動を日常的に実施する中で、考えと理由、根拠の関係を意識して、文章の組み立てを理解する力が高まった」

本文を抜き出して考えることで、書く力などが向上

本文を抜き出して考えることで、書く力などが向上

特に「書く」量は顕著に増えた。国語の授業では毎回、ノートに感想や学んだことをまとめている。当初、3行程度しか書けなかった児童も学期末にはノート1ページ分を書くようになった。

「書く」量が増えた理由については、学習者用デジタル教材の「マイ黒板」の活用が考えられるという。「教科書本文から抜き出してまとめる」活動でノートにまとめる際、鉛筆が止まる児童がいる。しかし「マイ黒板」機能を使うと、本文を容易に抜き出すことができるので、子供は、抜き出した表現を並べて眺めながら考え、補足の言葉を付け加えやすく、文章をまとめやすい。「書く」量が増えると、課題に対して自分の考えをもち、授業中に自分の「意見」を言う児童が増えた。積極的に取り組む姿勢は、CRTにおいても、無回答率の大幅な減少につながった。

年に数回発行している学級だよりには、児童が書いた「国語の学習で学んだこと」を掲載している。子供の感想を見て、保護者や校長からも、子供の鋭い読みや、成長を喜ぶ感想が届くという。

「国語好き」が1年で増えた

この取組をきっかけに、国語が好きな児童が「増えた」ことにも大きな手応えを感じている。年度当初と年度末で比較すると、デジタル教科書を活用した学級全31人では「国語がとても好き」と答えた児童が4人から18人に、「物語や説明文の単元で書く活動が好き」と答えた児童が18人から26人に増えた。国語の授業が「社会に出たときに役立つ学びである」と考える児童も増えた。

「授業改革を進めるというよりは、まずは1人1台の端末で学習者用デジタル教科書を活用するところからスタートした。子供の姿勢が変わることに刺激を受けて授業の進め方も変わった。どちらが先か、ではなく、ほぼ同時進行だった。道具が変わる影響は大きい」という。

授業の密度も上がった。

本文のラインマーキングや本文を抜き出してまとめる作業は、慣れると指示しなくてもできるようになる。作業時間が短縮され、考える時間が増えるとともに考えるスピードが上がり、子供同士の意見交換が活発になった。班での話し合いの活性化には多くの工夫が必要なものだが、学習者用デジタル教科書の活用でごく自然に活性化した。

白黒反転や総ルビ機能などの特別支援機能についても、児童は自由に活用している。白黒反転したほうが読みやすいと感じる児童が、思いのほか多いという。総ルビ機能により、漢字の読みを間違える不安もなく、読み取りや話し合いに集中できる効果もある。さらに、漢字練習にかける時間が減ったにも関わらず、言語事項の力も向上した。

「動画」活用においても、一斉授業とは異なることが起こる。一斉授業の場合は1時間に1、2回程度しか視聴できないが、1人1台端末で個別視聴すると、自分のペースで好きな箇所を繰り返し視聴するようになる。

デジタル教科書がない時代、素晴らしい話し合い活動を成功させている「あこがれの授業」があった。そんな授業に近づきつつある、という実感がある。「国語は、予想以上にデジタルと相性が良かった」と語った。

学テ“平均以下”から1年で“平均以上”に

東京学芸大学 加藤直樹准教授

東京学芸大学
加藤直樹准教授

加藤准教授は、小学校国語科における学習者用デジタル教科書の活用効果について定量的な計測を行うため、2018年年度初め及び同年度末に国語の標準学力検査(以下、CRT)を行った。調査対象は都内公立小学校6年の4学級(全124名・各クラス31名)。4学級のうち1学級は定期的にデジタル教科書を使用。残り3学級はいずれもデジタル教科書を使用していない。本調査によると、学習者用デジタル教科書を活用した学級は年度末に学力が大きく向上。CRTの平均得点は54・8点から73・1点と、全国平均以下から全国平均以上になった。

特に「書く」力が向上

調査結果を観点別でも分析。学習者用デジタル教科書を活用したクラスは4領域「話す・聞く」、「書く」、「読む」、「伝統的な言語文化と国語の特質」全てにおいて、活用していない3学級を上回り、3領域「話す・聞く」、「書く」、「読む」においては、全国平均を上回った。特に「組み立てを工夫して話すこと」「説明文を読むこと」「熟語の組み立て」をすることが顕著に伸びた。「書く」では、クラスの平均値が25ポイント伸び、クラス全員がほぼ「上位層」になった。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年10月14日号掲載

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