教育家庭新聞社では、平成28年度から私立公立高等学校IT活用セミナーを開催している。平成30年3月2日、CIVI研修センター新大阪東で私立公立高等学校IT活用セミナーを開催。教員や教育委員会が約80名集まった。本年はeポートフォリオの事例に関心が集まっていた。
「JAPAN e―Portfolio」(以下、JeP)は、高校生が探究活動や課外活動、資格・検定等の実績など学びの成果を入力し、振り返りに活用し、主体的な学びにつなげ、さらに3年次に蓄積したデータを生徒が選び、編集して大学に出願するシステム。生徒情報を教員がデータ入力するのではなく、子供が自分で書き込むことで働き方改革にもつなげる。現在約16万人が利用しており、約3200校でログイン履歴がある。
委託事業としては本年3月で終了し、4月1日から一般社団法人が運営主体となって運営を開始する。平成28年度からの文科省事業「大学入学者選抜改革推進委託事業」において「主体性分野」に採択された関西学院大学は、主体性を評価する仕組み「JAPAN e―Portfolio」を構築。尾木次長は本仕組みの活用と今後について話した。
同様のシステムは、アメリカやイギリスでも既に活用。JePは高校1年次から入力が始まる点が欧米と異なる。高大接続改革に向けて主体的な学びを促すために「振り返る」ことを重視しているためだ。
高校現場の声は、「学びの成果をデジタル化しておくことで二次利用がしやすくなる」「論文に使用した資料データも添付できる」「資格試験の成果も細かく入力できる」など。いずれも紙の調査書ではできなかったことだ。
教員は、生徒の情報を見ることができる。就職する学生や専門学校生にとっても主体性を育む仕組みとして有効だ。
既に、授業支援システム「Classi」やドリルシステム「スタディサプリ」ほかが本システムと連携しており、利用生徒数は4月には20万人を超えると思われる。
文部科学省は2021年から高等学校の調査書の全面電子化を目指す。紙の出願は間違いなくなくなり、電子化が一気に進むだろう。
現在、調査書の電子化に関する事業に申請をしている。初年度は教育委員会と連携しながら電子調査書が校務支援システムで生成され、安全に大学に送達できる仕組みを構築する。中間サーバで無害化してデータをDLするなど校務支援システムでeポートフォリオを活用できる仕組みとしたい。これらを円滑に活用するためには教育情報セキュリティポリシーに関するガイドラインの見直しも必要だろう。
失敗してどのように学びを得て立ち上がり成長したのか、を大学は見たい。子供が失敗しないように囲い込まないことが重要。失敗は学びの場である。今後は各大学の選抜基準が変わり、マッチングの入試になるだろう。
生徒自身が積極的にeポートフォリオに記入する仕組みとするためには、進路担当の教員だけでは不足で学校ぐるみの取組が必要だ。管理職も交えて若い教員を中心に検討していくことで高校は劇的に変わるのではないか。
危惧すべき点は今後、ALや探究など新しい学びにフィットしていく高等学校とこれまで通りの大学入試対応を継続する高等学校の間で格差が広がり、これまでの序列が大きく変わるのではないか、という点だ。【講師】関西学院大学高大接続センター次長・尾木義久氏
【第6回私立公立高等学校IT活用セミナー・大阪:2019年3月2日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年4月1日号掲載