教育家庭新聞社では、平成28年度から私立公立高等学校IT活用セミナーを開催している。平成30年3月2日、CIVI研修センター新大阪東で私立公立高等学校IT活用セミナーを開催。教員や教育委員会が約80名集まった。本年はeポートフォリオの事例に関心が集まっていた。
1学年約1000人と関西最大規模である近畿大学附属高等学校は、平成25年度の新入生から情報端末(iPad)生徒1人1台活用をスタート。現在は高校生3000人、中学生850人、教員約200人、計約4000台の情報端末が稼働している。乾室長は本取組に立ち上げから関わっている。
タブレット端末は学校一括購入で必要なキッティングをしてわたす。生徒の成果物や資料をすべて持ち歩けるように、現在128GB。更新のたびに容量を増やしている。
保護者負担で個人の持ち物であることから、充電も管理も自宅で、が基本。故障保険に加入し、年1回であれば無償対応できる。
アプリのDLは自由。これについてはかなり論議したが、6年を経て問題は起きていない。SNSはあって当たり前、「使うな」ではなく「不用意に使うな」と指導できる。教員・生徒双方にとって理が適っており、ストレスがない。ICT環境は教員が効率的に授業を進めることができるが、目的はそこではなく、生徒が主体的に学ぶために整備するもの。生徒が自由にタブレット端末を活用できる環境は「情報の世界を切り開くサバイバルナイフ」だ。生徒のアプローチは様々で、そのためには自由度を高くする必要がある。Googleで検索しても解決できない問題に立ち向かえる「アングーグラブル」な力の育成を目指し、創造、批評、プラン、推論、整理するスキルを育むための授業構成を考えている。
タブレットは学習用のみではなく、情報共有の効率化に向けて導入した。学校内での教員間の共有はすべてオンライン化していたが、生徒・保護者に対してはすべてアナログで、デジタル配布ができず不便であった。そこで「サイバーキャンパス」を開発。情報はタイムライン上にアップでき、検索もできる。ドラッグ&ドロップでファイル送信ができ、利便性が大きく向上した。
大きな転機は、eラーニングアワード2013で大賞を獲得したこと。校内の意識が変わり、全校的な取組となった。ADS(=Apple Distinguished School)も先般、3度目の認定を受けた。Appleが認定した教員(ADE)が集まる世界的な教育イベントにも参加。日本の遅れを肌で感じた。PISA調査によると、学校におけるICT利用頻度で日本は最下位グループ。世界の方向性やスピードと大きな乖離がある。日本の生徒に力がないわけではない。教員や学校が「ICTは学力に無関係」と積極的に阻害している。
サイバーキャンパスに「学びの記録」を追加してJapan e―Portfolioと連携。生徒自身が「公開・非公開」を選択できる。これらの情報を学籍システムとデータ連携できるように調整、試行錯誤中だ。
学校行事の体験もeポートフォリオに記録。オープンキャンパスを生徒主導にしたところ成功を収めた。「オープンスクールサポーター」を公募して約200人が応募。体験授業、オープンカフェで悩み相談など自分たちの学校を自ら広報。オープンスクールは学校のイベントではなく在校生のイベントになった。【講師】近畿大学附属高等学校ICT教育推進室長・乾武司氏
【第6回私立公立高等学校IT活用セミナー・大阪:2019年3月2日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年4月1日号掲載