教育委員会や学校の整備担当者を対象に実施している「教育委員会対象セミナー~ICT機器の整備と活用・研修」が、10月26日大阪で開催された。次回は12月5日に東京で、2月8日に福岡で開催する。
榎本氏はプログラミング教育本格実施を前に、なぜ小学校からスタートするのかについて講演した。
AIやビッグデータ、IoTなど社会も生活も激変の時を迎えている今、ある程度コンピュータサイエンスについて知らないと、利用することも生み出すこともできない。子供のうちから学ぶことでコンピュータサイエンスに関する創造性を育むことができる、というのが第一の理由。単なる消費者から技術にのみこまれない賢い消費者の育成にもつながる。
第二の理由は、プログラミング的思考(論理的思考)の育成にある。
文章題が理解できない、自分の考えを論理的に構築して説得できない子供が増えている中、論理的思考の育成が求められている。
赤堀侃司氏(ICT CONNECT21会長)がプログラミングの課題と一般教科との相関を調べたところ、最も関係が深かったのが、国語の読解と社会のグラフの読み取りであった。つまり、論理的思考ができるようになれば、こういった一般科目の学力向上も期待できるわけである。
新学習指導要領では、小学校において、プログラミングの体験が盛り込まれている。
これまで多くの授業を見てきたが、児童・生徒が教員の望む答えをワークシートに書き込む、という授業スタイルでは、論理的思考を育むことはできない。まずは教員の意識改革が重要である。
論理的思考を学習活動に取り入れるためには「目的を達成するために何をすべきかステップで考えて実行・修正していく学習活動」を意識することである。
論理的思考では「なぜ」「どうやって」「どうなったか」を意識し、結果を予測して実行、失敗した場合は予測がどう間違っていたかをふり返り、修正してさらに実行を重ねていく、という一連の流れが必要だ。
プログラムとは行動手順書であり、料理のレシピや音楽演奏用の楽譜も同じように「誰が行っても一定レベルの再現が可能な」ものである。
プログラミングとは、この行動手順書を書く行為。実際には、大きな問題を小さな単位に分割して手順通りに実施することで目的を達成する。
それは、一品物の芸術作品と異なり、工業製品のような再現性のあるものを作り出すのがプログラミングなのである。
日常生活の「行動手順書」作りはアンプラグドの1種だ。
例えば“学校に遅刻せずに行く”という大きな問題を「顔を洗う」「パジャマを着替える」「靴を履く」など細かい単位に分割し行動の順序を考え、順番に並べる。「もし雨がふりそうなら」というのは条件分岐である。
この活動は、プログラミング教育でありながら生活改善にもつながることから、生活科での取り扱いが可能だ。
東京都足立区の小学校では「子供まつりを成功させよう」でプログラミング的思考の育成を取り入れた。何をもって成功とするか、そのために何をすべきかなどを順序立てて考え、手順とルールを決めた。
越谷市の小学校では人感センサーや明るさセンサーのはたらきについて、紙ブロックを組み合わせ、条件分岐に限定した学習活動を展開。
文京区の小学校では光センサーを利用した「誰かを笑顔にする物づくり」に挑戦。全員同じ教材の形でも、想像力を活用した見立てでイメージを膨らまし、降雨ロケットや難聴者向け目覚まし時計など様々な役立つ機器をプログラミングで表現した。
ゴールは、「この事象はこのように実現されているのか」という、思考と体験に裏打ちされた気付きである。
この教育の最も重要な点は「嫌いにさせない」こと。
一般教科に取り入れようと「論理的に」教員が考えることで授業改善につながることから、前向きに取り組むことが何より大事である。
【講師】聖心女子大学非常勤講師・榎本竜二氏
【第53回教育委員会対象セミナー・大阪:2018年10月26日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2018年12月3日号掲載