取材を通し、明らかになった意外な点がある。デジタル教科書に対する学生の意識だ。
教員志望の学生はデジタル世代であり、自らの情報収集やスキルアップ、コミュニケーション等にPCやネットワークを使っているにもかかわらず、当初、デジタル教科書・教材の活用に否定的なイメージを持っており、デジタル教材を使うことが授業力育成の妨げになるのではないかという漠然とした不安を持っている‐という点だ。教員志望の学生はICTの授業活用に対して漠然とした不安、場合によっては活用に対する罪悪感を持っている。
上越教育大学の中野特任准教授は、「『ICTに頼りすぎてしまうと、授業力が身に付かないのではないか』と、漠然とした不安を持つ学生がいる」と言う。
しかし、実際の指導が進むに連れ、その印象は変わってくるようだ。
富山大学の高橋准教授は、「教育方法と技術」履修前後で学生にアンケートを行っている。「履修前は、デジタルよりアナログのほうが効果的、PC活用より児童生徒との触れ合いが大切、ICTを活用した授業をほとんど経験していないので必要性も感じないし、使いたいと思わない、など予想以上に否定的な学生が多い」と話す。そこで講義の中で前述のように、ICTを使った場合の良い発問、悪い発問を示すなどで、ICT活用は授業をよりよく展開するものであることを実感できるようにしている。「ICT活用で授業力を補える面もあるが、使いさえすればなんとかなるものではない、と実感できれば、その可能性と有効性を認識できるようになる」と話す。履修後は、「自分もこういう授業を受けてみたかった」、「興味関心を高めるのに役立ちそう」「ICTは使い方によってとても役立つ」という回答に変化するという。
信州大学の東原教授は、「迷いながら使うのと、良さを体感してから使うのとでは、使い方も効果も大きく違う。現職の先生に良い事例を話してもらうなどで、良さを実感することが学生にとって重要」と指摘している。
もうひとつの課題は、学校現場の温度差だ。
ICT活用について積極的な学生を学校現場に送りだしたものの、赴任先の学校環境のICT環境や活用が遅れている場合、ICT活用にチャレンジする新任教員への視線が冷ややかな場合もあると言う。
東原教授は、「新任教員がデジタル教科書を始めとしたICT機器を使っていると、先輩教員が『まだ早い』『もっとやるべきことがある』というアドバイスを口にしやすい傾向がある。もちろんそれが間違っているとは言えないし、大学は、学生の授業力そのものを高めて現場に送りだす手法についてもっと考えていく必要はある。しかし、授業力不足をICTで補うことも1つの役割であるという認識を現場教員に広めることも重要なのでは」と指摘する。
【2012年6月4日号】
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