10月20日、大阪市内で第102回教育委員会対象セミナーを開催。3つの教育委員会が端末の共同調達、ゼロトラストネットワーク、AL教室の学びを、2つの中学校がICTを活用した授業改善について報告した。
奈良市(小学校42校・中学校22校)は2023年5月よりGoogleの認証基盤を活用したゼロトラストネットワークの運用を始めている。米田教育ICT推進係長が導入の経緯と新しい環境におけるデータ活用について報告した。
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前回のシステム更改は2017年。ネットワークは学習系・校務系・校務外部接続系の3層分離で構築し、1台のPCに複数のOSを入れて起動時に選択するデュアルブート方式で教員用端末を整備した。しかし、学習での端末・クラウド活用が進み学習と校務の切り分けが難しくなる中で、境界分離に限界を感じていた。そこで、2022年度末のシステム更改を機にゼロトラストアーキテクチャを採用したアクセス制御型の校務システムを構築することとした。
本市では全児童生徒・全教員にChromebookおよびGoogleアカウントを配布しており、Googleクラウドの認証基盤によるアクセス制御を利用してゼロトラスト環境を構築した。ファイルサーバはすべてGoogleドライブに移行している。
ネットワークはセンター集約型で各校から1Gbpsの専用線で教育センターに接続し、教育センターからはSINET経由で20Gbpsの帯域保証でクラウド接続する。児童生徒・教員あわせて2万5000人に対しおおむね1人1Mbpsの帯域を保証できている。
GoogleアカウントをEducationPlusにアップデートしたことで、各種セキュリティを向上した。BeyondCorpやDLP、信頼性ルールといったGoogleクラウドが持つ機能を用いて、より安全なセキュリティ対策を行っている。これにより統合型校務支援システムも安全にアクセスできる。
アクセス制御の仕組みにより、校務支援システムやデジタル採点システムといった機微情報を取り扱うシステムは校内からのアクセスに限定した。授業支援ツールや保護者連絡ツールなど各種ツールも認証基盤を経由してSSOでアクセスできる。
多要素認証には端末のシリアルによる所持要素とパスワードの記憶要素を用いた。Webフィルタリングはロイロノートの機能を活用。Chromebook本体にデータを残さない仕組みに設定している。
セキュリティ対策は技術的対策と人的対策を一体的に行うことが重要だ。そこで、セキュリティポリシーを改訂し、教員の視点に立った運用ルールも作成。各種クラウドツールも、まずはセキュリティ事故を起こさないための設定を行った。今後も機動的にポリシーやルールを見直していきたいと考えている。
新しい校務環境となったことによりデータ活用も進んでいる。
Googleアカウントを一意キーとして、学習系・校務系データをBigQueryに集約し、LookerStudio(BIツール)を用いて分析・可視化。Chromebookを入り口として、日々の活動からデータが自動で収集・蓄積される。クラウド上で統合データベースの構築と学習系データを活用したダッシュボードの構築が完了済。現在は校務支援システムベンダーと協力しながら校務・保健のデータ連携を調整中だ。
教育行政データについては今年度、教育委員会内各課でデータ活用を意識した業務フローの改善を行い、データテーブルを作成する予定。データベース構築・ダッシュボード作成にかかる費用はGoogleのライセンスおよびシステム構築費用に含まれている。
ダッシュボードは各教科の学習結果、Google各種アプリの利用状況、毎日の健康観察、AIドリル教材の利用状況を組み合わせて目的別に作成している。
子供用ダッシュボードは自分の学びをふり返り、次の学習をデザインできるように設計した。ドリルで学習するとスタンプが押され、正答率は天気マークで表示される。円グラフでどの教科をよく勉強したかが分かる。現在は、小4から中3のすべての児童生徒を対象に導入している。
また、心の健康観察のダッシュボードも作成。ネガティブなコメントを抜粋して取り上げる設定も、データベースとLookerStudioの組み合わせで設定可能だ。こちらは、要望のあった学校に導入している。好事例を蓄積して今後の展開を戦略的に進めていきたい。
校務でも安全にクラウドを使うことができるようになり、会議資料をドキュメントで共有し会議しながら議事録を作成するなどの活用が始まっている。校務でクラウドツールやICT活用が進み、教員が協働的な働き方の良さを実感することが、子供たちの協働的な学びにつながると考えている。
【第102回教育委員会対象セミナー・大阪:2023年10月20日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年12月4日号掲載