11月10日、仙台市内で第104回教育委員会対象セミナーを開催。稲垣忠教授・東北学院大学は端末の日常的な活用を、岩沼市教育委員会はDXの取組を、岩沼小学校は授業改善を、北海道教育大学付属函館中学校は学習履歴の利活用について報告した。
リーディングDXスクールに指定されている岩沼小学校では、今年度より子供が主語となる授業を目指して「方法選択型探究学習」に取り組んでいる。研究主任を務める北澤教諭は「子供はすぐに慣れる。4、5回実践を繰り返すうちに子供たちの情報活用能力は驚くほど進化した」と話す。実践の経緯と児童・教員の変化の様子を報告した。岩沼小学校リーディングDX特設サイト:https://sites.google.com/gs.myswan.ed.jp/iwasho-readingdx視察も随時受け付けている。
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教員の授業観の転換や複線型授業の実践に向けて、どのようなスタートを切ればよいか。先進校の実践を一気に模倣することは難しい。そこで、先進校の取組の中からエッセンスを抽出して本校独自の入門編を作り、子供に委ねる授業に挑戦。これを「方法選択型探究学習=IndiviFLIS(インディビフリス)」と名付けた。
インディビフリスの導入に向けては、まず4月に行った研究全体会で社会背景や答申も踏まえて能動的な学び手の育成と複線型授業の必要性を説明。教員がビジョンを共有した。
「方法選択型」とは複数の教材、学習ペース、学習形態から子供が自分に合ったものを選択すること。例えば教材は動画、教科書、ウェブサイト、学習形態は個人、ペア、グループなど。「探究学習」はただ調べるだけではなく、情報を収集・整理・分析した後、相手に伝えるところまでを一連の流れと解釈している。
子供たちにもインディビフリスの学習の意味を伝え、先進校の授業動画を見せてイメージの共有を図った。
具体的な授業の姿は研究主任が提供。6年理科で実践を重ね、他の教員に参観してもらい意見交換を行った。
基本的な授業の流れは教員による課題の確認(5分)、情報収集と整理(25分)、意見交流(10分)、まとめ(5分)である。情報収集と整理はJamboardを活用。クラウドの良さは相互参照できること。他者参照により表現の幅が広がり、途中参照により方向性を確認できる。実践を重ねるたびに、児童の情報を精査する力、構造化する力、相手に伝える力が進化。実践1回目は45分間、調べ学習に終始してしまったが、4回目には25分でまとめられるようになってきた。実践を重ねた後で、もう一度先進校の取組を他者参照。子供たちは「付せんの数が違う」「色を変えると分かりやすい」と発見していた。
研究主任が実践の見本を提示したことで他の教員にもすそ野が広がりつつある。5年生は6年生のインディビフリスを参観した後、学びのイメージを得て取り組んだ。学年の枠を超えた他者参照が起こっている。
試行錯誤を繰り返した本校のインディフリスの実践は、過程も含めて他校でも真似やすい仕組みではないかと考えている。教員・子供とビジョンを共有し、調べ学習から始めてクラウドに慣れ、対話や共同編集を取り入れていく。これを繰り返すことで学びが自走化する。
学びが自走化したことで、理科の実験も1人ひとりで進めることができた。実験前には家庭学習で仲間とつながり、音声通話しながら白紙共有を行ったホワイトボードアプリで基礎知識をまとめた。この学び合いの後の実験では、考えながら何度も実験を繰り返す姿が見られた。
教員がいない状況でも実践。授業の流れを提示し、それを基に児童の合図で学習を進めていた。
インディビフリスと学力の関係性をアンケート調査と再テスト法で分析した。
従来型の一斉指導で学習した子とインディビフリスで学習した子に単元の感想や印象に残った知識について質問しテキストマイニングで分析。従来型の指導では「覚える」「難しい」などネガティブな捉えが多く、インディビフリスでは「調べる」「進む」など意欲的なふり返りの様子が見られた。
再テスト法は期間をおいて同じ内容のテストを実施するもの。1か月半後のテストでも初回点数との大きな開きがあまりなく、自ら学び取った知識が定着につながっている。
インディビフリスでは児童1人ひとりで到達点が異なり、到達目標ではなく、向上目標が基準となるためコンピテンシーベースでの評価が可能になる。向上目標の微妙な伸びを見取って価値づけ、児童のメタ認知の向上につなげたいと考えている。
今後は学校全体として授業実践を積み、市内・県内外への横展開に向けて研修パッケージの作成に取り組んでいく。
【第104回教育委員会対象セミナー・仙台:2023年11月10日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年12月4日号掲載