11月10日、仙台市内で第104回教育委員会対象セミナーを開催。稲垣忠教授・東北学院大学は端末の日常的な活用を、岩沼市教育委員会はDXの取組を、岩沼小学校は授業改善を、北海道教育大学付属函館中学校は学習履歴の利活用について報告した。
岩沼市教育委員会(小学校4校・中学校4校)は今年度、リーディングDXスクール事業の指定を受けている。加藤指導主事は「教員に端末やクラウド環境を使った働き方改革の手応えを感じてもらうことが授業での活用のモチベーションにつながる」と話す。
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戦略とは「何をしないか」を決めることだ。デジタル化によって何ができるかを考えると足し算になってしまう。
教育委員会がしなくていいことを決めておくと、学校としても改善につなげやすい。
まず、2学期制として通信表発行回数を削減した上で所見も廃止した。日常の連絡や面談で情報発信をしっかり行うことで保護者からも肯定的に受け止められている。
宿題観も改革した。一律に課す課題を見直して放課後の丸付け業務を削減し、子供たちが主体的に行う宿題へと転換を図っている。
公簿は完全に電子化。指導要録はクラウドへの電子保存を前提に、紙媒体は確認と転出時のみ。校長権限のロック機能により改編を防いでいる。
健康診断票は県独自の仕様に対応させ、統計的に必要な情報を出力できる仕様に変更を行った。
日々の健康観察簿もボタン1つで出席簿に反映してその日のうちに集計でき、教室からも入力できる。
通信表は小・中学校で同じ様式とした。市内で転出入した際はデータをそのまま引き継ぐことができる。
手書きや転記の作業を廃止できたことは働き方改革に大きな効果があった。複数の仕様変更は大変ではあったが、2年目以降の幸せを信じて試行錯誤を重ねた。
日常業務のDXには汎用的なクラウドツールを活用。教員が異動しても使えるスキルを獲得でき、校務用PCや端末に加えてスマートフォンでもクラウドとつないで仕事の一部を継続することもできる。
チャット活用で情報共有のスピードが格段に上がった。市内全教員のGoogleアカウントから任意のグループを作成しており、教育委員会からの連絡が即座に担当教員に届く。
「GIGAトラブル解決チーム」では写真や動画でトラブルの原因を伝えやすくなり、他校の教員間で情報交換して解決する事例も増えた。
教員が取組を紹介し合うチャットグループでは挑戦したいアイデアへの意見やアドバイスも盛ん。例えば「紙媒体の学級通信をGoogleサイトで保護者向けに公開したい」などの実践のアイデアが広がり、次の実践も生まれやすくなっている。
市教委から学校に送る文書はスプレッドシートで一覧化。同時に文書回覧ができるようにした。日付、文書のタイトル、Googleドライブ内のフォルダのパス、教育委員会の発出者、期限と提出方法、学校ごとの収受チェックボックスなどを1枚のシートにまとめている。チェックボックスは締切が近づくと色が変わる仕様だ。検索機能で日付ごと、業務ごとにファイリングできる。ある学校はさらに工夫して全教員のチェックボックスを作成していた。一覧化により1年間の文書量が可視化され、文書の精査にもつながった。
リーディングDXスクールの岩沼北中学校ではGoogleサイトで校内ポータルサイトを作成している。教員向け内部サイトとして、校務支援システムから貼り付けた予定表、Formsによる遅刻・欠席連絡、週予定表、年間分の時間割りなどの情報を集約。職員室の大型モニターと1人1台端末、自宅からでもスマートフォンで確認できる。
本市の校務DXを支えたものをふり返ると、教員の1人1台端末を早期に導入したこと、近い将来のビジョンを共有してスタートしたことが大きい。加えて、変化を起こす時は一斉に行うと円滑に進むと感じた。紙とデジタルの両輪で進めると紙から脱却できなくなってしまう。
チャットによって学校と教育委員会の距離が近くなり、課題解決までスピーディーに対応できる環境を提供できたことも活用の促進を助けた。
これからは、これまで蓄積した実践をはじめ、児童・生徒のプレゼンテーションコンクール全国大会出場や県教委主催の「算数チャレンジ大会」準優勝などといった、授業と日常業務のDX化による成果を公式HPやSNS、各種メディア取材で発信していくことも教育委員会の仕事と考えている。
内外からの評価が教員と子供に還元され、自尊心や意欲の向上、さらなる活用へと良いサイクルを作っていきたい。
【第104回教育委員会対象セミナー・仙台:2023年11月10日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年12月4日号掲載