教育委員会対象セミナーを10月3日に熊本市内で、10月13日に金沢市内で開催。堀田龍也教授・東北大学大学院・東京学芸大学大学院、大久保紀一朗講師・京都教育大学教職キャリア高度化センター、4つの教育委員会と3つの小学校、中学校、高等学校が登壇し、次のフェーズに向けたICT活用について報告した。
熊本県立第二高等学校は普通科、理数科、美術科の3学科を設置しており、2003年度よりスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定。SSH探究部長を務める美術科の染森教諭が、21年間の研究に基づく生徒の思考を促す仕掛けづくりと3科の強みを生かしたSTEAM教育の取組を報告した。
まず1つは、生徒を授業に引き込むARCSモデル。学習意欲を高める要素をAttention(楽しそう~注意喚起)、Relevance(他の授業で習った~関連性)、Confidence(自分でもできそう~自信)、Satisfaction(またやりたい~満足感)とする考え方だ。このようなヒントがあると生徒の学習だけでなく教員の研修もスムーズになり、若手の教員が教育方法を効率的に習得できる。
次に、ICT活用能力の育成を授業に取り入れること。思考力の育成とともに、探究活動や授業を通して系統的な育成を図っている。主にGoogleツールを活用し、jamboardを思考ツールとして用いた課題発見、Formsによる情報収集やスプレッドシートによるデータ整理、ドキュメントやスライドでレポートやプレゼンを作成するなど思考プロセスに合わせてカリキュラムに組み込んでいる。meetでのオンライン打ち合せや共同編集機能によりブラッシュアップする過程で思考力が養われる。
事前に課題を伝え、生徒がそれぞれ担当箇所を決め調べてきた知識を発表し合うジグソー法は、授業時間を短縮でき、発表することで内容が定着しやすくなる。
さらに、発表を予告すると生徒が緊張感をもって取り組むようになる。多様な生徒に配慮してグループ発表から全体発表へと段階を踏んでいる。
発表に対し質問に答えるなど対話も重要だ。思考力は言葉を紡ぐことで育成される。
発表やグループワークは安心が保障された教室が前提でこそうまくいく。デジタルとアナログを組み合わせて、徐々に互いの理解を深める過程を用意している。
例えば美術科では課題をもとにGoogleスライドでグラフィックレポートを作成・発表している。考えを表で整理したり、ビジュアルで表現したり、画像を見比べて考察を深めたり、画像処理によって分析を深めたりしており、教員は作品・相互評価・発表など複数の視点で評価している。
本校SSHの研究開発課題は1人ひとりの個性や価値を引き出し、生徒自身がいかに学ぶか。そのためのテーマの1つがSTEAM教育だ。イメージを表現したり、計画をデザインしたり、アートは理論を現実に変えようとする力がある。
探究活動は各科の特徴に合わせて展開。例えば普通科は、1年・自分の発見、2年・将来の仮説、3年・仮説の検証と、自分自身を見つけるための3年間のストーリーを立てて取り組んでいる。3科合同の研究成果発表会では科を越えて質疑が行われ、協働的な学びが生まれている。理数科の生徒は美術科の発表を見て聞く人を楽しませる工夫を考えるようになったり、美術科の生徒は理数科の発表を見て根拠を深めようとしたり、互いの強みや自分の苦手領域の補強方法を学び合っている。
探究活動の土台となる「科学的探究能力」の育成を目標に、授業改善の一環として探究型授業を全教科で研究し、思考力・判断力を高める授業に取り組んでいる。
学校全体で「生徒の思考・判断を促す問い」を考えるための共通言語としてICEモデルを参照。Idea(習得)、Connection(活用)、Extension(探究)の3フェーズで学習活動を定義した。高校は教科の独自性が強く横断的に考えることが難しかったが、フェーズごとに捉えることで科を越えた話し合いが生まれるようになった。Cフェーズでは知識をどうつなげるかによって思考力を養う。定期考査にはこの構造を用いて思考を深める問いを設定している。
探究授業を職員研修の一環とし「やって覚える」ことで教員のICT活用スキルを向上。ICT活用と評価の年間指導計画略案を配布し見通しを持てるようにしている。
【第100回教育委員会対象セミナー・熊本:2023年10月3日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年11月6日号掲載