教育委員会対象セミナーを10月3日に熊本市内で、10月13日に金沢市内で開催。堀田龍也教授・東北大学大学院・東京学芸大学大学院、大久保紀一朗講師・京都教育大学教職キャリア高度化センター、4つの教育委員会と3つの小学校、中学校、高等学校が登壇し、次のフェーズに向けたICT活用について報告した。
教育情報化推進体制の10年構想を2011年度に立ち上げ、継続して教育の情報化に取り組んでおり、ICT教育のイメージが定着している熊本県山江村(小学校2校・中学校1校)。GIGA端末配備後はこれまでの取組を土台にセカンドステージとして新しい研究を始めている。藤本誠一教育長が報告した。
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2011年度の文科省「国内のICT教育活用好事例」調査研究事業以来、毎年国や県の研究指定を受けており、他自治体からの視察も年間300件と多い。当初はICT機器導入に関する質疑が多かったが、今は活用フェーズに移行したことを感じている。
研究や全国からの視察は教員にとっても目標やモチベーションにつながっており、本村教員は積極的に取り組んでいる。
ICT機器の整備は教育長のトップダウンで一気に行うのではなく、教員のニーズを聞きながら段階的に行った。
小中9年間を見通した教育推進のため、村内の教員全員が参加する小中合同の研修会を年に3回実施している。ICT支援員は15年度より各学校に常駐。ICTを日常的に活用できる環境を整えておくことが重要だ。
高スペックのWindowsPCを採用し、中学校では家庭用としてiPad端末も配備。小規模校には少人数で思考の可視化ができる机上投影型プロジェクターを導入。ソフト面は、全学年に教師用デジタル教科書(国語、社会、算数・数学、理科、英語)と学習者用デジタル教科書(国語、算数・数学、英語、保健)を配備。コンテンツ等は子供たちのニーズに応じて順次入れ替え、デジタルならではの学びの充実を図っている。
導入より3年後の15年度、全国学力学習状況調査で正答率が全国1位となった。なかでもB問題の点数が高く、ICT活用をきっかけに思考力の向上が図られている。また下位層の子供の底上げを図ることもできた。22年度も依然として高く、特に中学校の伸びが大きい。小学校時代からICT活用に慣れ、それが中学校でも継続している点は大きい。
端末操作などの情報活用能力に関して子供たちの実態に合わせて系統的に指導が行えるよう小学校の低・中・高学年と中学校で身に付けるべきICT活用スキル表を作成。キーボードによるタイピング入力は学年ごとに1分間の文字入力数の目標値を設けた。段階的な指導と目標値の提示により特別に時間を設けずともスキルが向上した。
プログラミング教育には民間の支援を活用。人型ロボットによるプログラミング体験は、実際に動く様子が子供たちにとって身近なものと感じられ意欲が増している。
英語教育にも力を入れており、AIを活用した英語教材の導入により聞く・話すといったコミュニケーション力を重視した「使える」英会話の学びを展開。英語検定を無料化したことで、昨年度の中学校卒業生の英検3級取得率は81・8%と国の基準を大きく上回った。3級以上の取得者にはシンガポールへの語学研修を村が助成しており子供たちは英検に意欲的に取り組んでいる。
教員や子供たちの端末操作スキルが身についていたことでコロナ禍の休校期間中において学びの保障を実現。毎朝オンラインでつながることは適切な生活の維持に効果があり学校再開にむけスムーズに移行できた。
2020年7月の豪雨では川も氾濫し、多大な被害を受けた。その復興計画の1つとして、川の上流に位置する本村の小学校と下流に位置する他市の小学校で環境問題についてオンラインによる遠隔交流・学習を行っている。
教員の働き方改革については校務支援システム、保護者への連絡アプリなども活用して教職員の負担軽減を図っている。中学校の部活動指導に関する時間の多さがいちばんのネック。検討委員会を立ち上げて土日の部活動地域移行を準備中で来年度からスタートする予定。
自分の考えを主張できる子供たちを育てることが、これからの時代をたくましく生き抜く力になる。教員のICT活用指導力のさらなる向上と子供たちの議論する力の育成を図る。1人1台端末の更新については、文科省予算に加えて1台あたり10万円程度の確保について検討中である。
【第100回教育委員会対象セミナー・熊本:2023年10月3日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年11月6日号掲載