7月31日、徳島県徳島市内で第99回教育委員会対象セミナーを開催。講演内容を紹介する。
鳴門高等学校で数学科を担当する安原教諭は、生徒のふり返りをテキストマイニングで分析し、学びの状況や課題を把握して授業改善に活かす研究に取り組んでいる。本研究は2022年度徳島県GIGAスクール実践動画コンテストで金賞を受賞。徳島県総合教育センターホームページに動画が掲載されている。
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個別最適な学びを実現するためには、生徒が自ら課題を見つけ、学習を調整していく力が必要だ。数学の学びについて文章を使って整理したポートフォリオを作成し、テキストマイニングを用いて分析することで、生徒自身の学びの構築や教員の授業改善に活かせると考えた。
ポートフォリオは、生徒が自己評価したり、自らの学びをふり返ったりするもので、教員にとっては生徒の思考の過程をより正確に把握するためのツールとなる。本研究では自由記述形式でポートフォリオを作成した。
自由記述を分析する際によく使われる手法がテキストマイニングだ。文章(テキストデータ)を文字や単語などの単位に分解し、それらの関係を定量的に分析する。本研究ではKH Coderというフリーソフトを活用した。プログラミングの専門的知識がなくても使うことができ、学校現場にも導入しやすい。
テキストマイニングの手順は、①データの取得、②データのクリーニング(誤字の有無の確認)、③形態素解析、④集計・可視化。形態素解析とは文章を、意味を持つ最小の語の単位(=形態素)に分解し、品詞や変化などを判別すること。分解した語を集計し、出現回数や関係性を図や表で可視化することで有益な情報が抽出できる。
例えば、新学習指導要領・総則のテキストマイニングを行ったところ、「授業改善」「深い」「地域」「カリキュラムマネジメント」「主体的・対話的」の出現回数が多く見られたことから、「主体的・対話的で深い学びを意識した授業改善」「地域に開かれたカリキュラムマネジメント」の重要性が述べられていると推測できる。
出現パターンの似通った単語を線で結ぶ共起ネットワークという手法を用いると、単語のつながりが視覚化される。総則の分析からは「カリキュラムマネジメント」と「充実」の関連性が深いことなどがわかる。
ポートフォリオはMicrosoft Formsで提出し、生徒が送信すると自動的にMicrosoft Teams上のExcelデータに転記するようPower Automateを活用してプログラムした。クラウドを用いることで情報の共有・蓄積が容易になり、電子化によって作業の効率化を図った。
分析を行うにはある程度望ましい書き方の設定が必要だ。「楽しかった」などの感想では分析しても意味を為さない。「今回の授業で何がわかったか・わからなかったか」を質問の軸として数学の用語を用いて記述するようルーブリックを設定し、書き方を例示した。
「わかったこと」の記述の分析は生徒の理解度の把握に役立つ。「わからなかったこと」の記述の分析からは出現回数の多い語について生徒に教科書を用いて説明させるなど生徒のニーズに合った学習課題を設定することができた。
テキストマイニングによる分析は、教員が生徒の記述をもとに自らの授業をふり返ったり、生徒が学びの視点を得て自らの課題を認識するきっかけとなった。ポートフォリオを共有することで、他の生徒の記述を参照して自分の知識を再構成することもできる。
ポートフォリオの蓄積とテキストマイニングの分析を、わかる授業や考える授業といった授業改善につなげるサイクルが重要だ。クラウドの良さを活かして提出時間の自由度を上げるなど生徒の負担感を減らす工夫もしたい。
【第99回教育委員会対象セミナー・徳島:2023年7月31日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年9月4日号掲載