7月31日、徳島県徳島市内で第99回教育委員会対象セミナーを開催。講演内容を紹介する。
社会の変化に伴い学校教育も目まぐるしく変化している。これからの時代を生きる子供たちには指示に対しミスなく進行する力よりも、そもそも何に取り組むのかを見つけ、その課題に対して自分の考えを示すことが求められる。
社会の変化の背景にはコンピュータの急速な発展がある。大学入学共通テストを生成系AIに解答させたところ「英語」「倫理、政治・経済」の正答率はAIが受験者平均を大幅に上回ったという報告がある。古文や漢文といったインターネット上に情報が少ない「国語」もAIが53%、受験者平均が55%とわずかな差だ。問いに対し正解がある物差しの中では人間はコンピュータに敵わなくなってきている(ChatGPTに共通テスト(旧センター試験)を解かせてみた=https://note.com/usutaku/n/n75b6f4bf4e05)。
2022年度の新入社員意識調査では約半数が10年以内に退職予定。ライフステージに合わせてキャリア形成や働き方を変えることが当たり前になり学び続けることの重要性が増している(新入社員の意識調査2022=https://www.mynavi.jp/news/2022/08/post_34624.html)。
何かを学び始める時、まずはインターネットで情報収集すると答える人が多いだろう。インターネットで必要な情報を集め、複数の選択肢から自分にとって最良の手段を選び取る力が学校教育段階から必要になる。
新学習指導要領にも「学びに向かう力」は教科単元を通して身に付けるべき資質能力の1つと明記されている。これには「先生がいなくても」が枕言葉につくだろう。探究的な学習の過程は多くの学校で実践されている。次のポイントは「学習の主体は誰か」。研究授業の後「子供の興味に合った課題設定だった」「情報が厳選されたワークシートだった」「子供の言葉を使って上手くまとめていた」などの議論が行われていないだろうか。これはすべて教員が主語になっている。
求められる力は自ら必要な課題を決め学習を調整する力であり、自律的に探究できる子供を育むためには成長段階に合わせて、徐々に学習の主導権を子供に渡すことが必要だ。教室の中にも多様性が広がり一斉授業の前提も崩れてきている。個別最適な学びとは教員が1人ひとりに合わせて準備するのではなく児童生徒が自分の学びを選び取っていくこと。学習の主導権を子供に渡し個別最適な学びを実現するために1人1台端末が配布された。端末を必要としない授業は変えていく必要があるだろう。
例えば春日井市では、誰かと共に学ぶ方がいい子、1人で学ぶ子、教員と学ぶ子、それぞれに最適な学び方も異なり教室が様変わりしている。
授業中、子供たちはクラウドで常に学習状況の途中を共有して互いに参照している。これはICTがなければできない学びだ。友達の途中経過を見ることは子供にとって大きなヒントになる。
春日井市はチャットも活用している。チャット活用のメリットは協働するタイミングを子供が決めることができる点にある。従来の授業では個別や協働の時間を教員が指示しがちだった。現在はチャットで「ディスカッションできる人」と呼びかけてタイミングも相手も子供たちがコントロールしている。
教科書は教員が上手く教えるためのメディアから、子供にとって授業で扱う課題の情報がわかりやすくまとめられているメディアに変化して活用されている。教員にはどういう課題を示すか、誰にどんな声掛けをするかという力が求められる。
春日井市をすべての学校が目指す必要はない。成功事例の1つと参考にし、校務で使ってみて各校の状況にあった利活用を目指してほしい。
1人ひとりが学びたいように学ぶためにはいくつか前提がある。まず、子供が学習過程や学び方をどれだけ理解できているか。教科横断的に捉えるには探究的な学習の過程がわかりやすい。課題設定、情報収集、整理分析、まとめ表現というプロセスで学習が進んでいくことを教員と子供の間で共有する。例えば、登場人物の心情を想像するために教科書を読むことが情報収集の場面だと子供自身が思えているかどうかが重要だ。
学習過程がわかったら次は子供が選択できる範囲を増やす。各過程のやり方を指導し、できるようになったら手を離したり新しいことを教えたりという流れを繰り返していく。子供に任せるには端末が必要だ。紙の問題集は事前に準備した形でしか提供できない。汎用的なツールやアプリを使えば教員の準備した範囲を超えて授業を展開していくことが可能になり、かつ子供が学習方法を選択できるようになる。
こうした個別最適な学びが進む中では支援が必要な子供の発見が重要だ。教員にとっては誰が何をどう学んでいるかを見るため、子供にとっては友達の学習過程を参照するためにクラウドが欠かせない。
端末の効果的な活用を目指す「やってみよう」の壁に対しては、はじめから授業で使おうと気負うのではなく、校務など使える場面で使ってみること。使っていくうちに子供の活用イメージもわいてくる。
次に学習者主体の活用に移行するには「みんなで一律に達成・先生が決める」という無意識的に共有されている授業イメージを変えること。子供は1人ひとり違うのだから学びの成果も異なって当たり前と考える必要がある。
先行事例がすべての正解ではなく学校の状況に応じて進めて良い。かつ正解を目指すのではなく挑戦と失敗を反復するアジャイルで進めること。そのために教育委員会がボトルネックになってしまわないように注意が必要だ。周りの環境で妨げられてしまうことのないよう、失敗することも織り込んで教員の挑戦を支援してほしい。
【第99回教育委員会対象セミナー・徳島:2023年7月31日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年9月4日号掲載