教育委員会対象セミナーを7月7日、東京都で開催した。世田谷区教育委員会、鴻巣市教育委員会、流山市教育委員会が教育DX、STEAM教室、教育データ連携など新たな学びに向けた取組を、杉並区立松ノ木小学校の笠原校長は職員室と保健室のクラウド化、東京都立町田高等学校の小原指導教諭は情報Ⅰの授業と評価について報告。講演内容を紹介する。
笠原校長は、副校長として勤務していた前任校(練馬区立関町北小学校)で昨年1年間にわたり取り組んだ、クラウドの特徴を活かした校務DXの実践を報告。
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クラウドの特徴は「同期・分散」。いつでもどこでもリアルタイムに情報共有や共同編集ができる点がメリットだ。職員室(校務)と保健室(生活)のクラウド化により情報共有が迅速になり、チームで対応できる学校経営を実現することができた。
Googleの各種ツールを活用したクラウド化は、あると便利な機能をカスタマイズして作成できる点が使いやすい。
週案簿はGoogleスプレッドシートに移行して1つのファイルを全担任で共同編集。学年主任の週案簿を参考にしたり、授業内容を確認して空き時間に他学級の授業を観察することで学び合いも活発化した。
連絡帳もスプレッドシートで作成し、週案簿と紐づけて自動反映されるように設定。教員の負担が減っただけでなく、行事日程の変更など最新の連絡事項を児童が自宅でも確認できる。
Google Classroomを活用した学級だよりはクラスの児童のみ閲覧できる設定にしたことで個人情報漏洩の心配がなくなり、印刷作業も軽減。動画の配信もでき、保護者が子供の様子を今まで以上に把握できるようになった。
全校児童約600人が参加するClassroomは、委員会のお知らせなど掲示板として活用。給食の写真を掲載したところ、児童から「美味しかった」などの反応が多かったことから、調理員も参加して交流できるようにした。クラウド環境は対面で触れ合う時間の少ない人々と交流するための補助的なツールとしても利用できる。
保健板(健康観察表)は、欠席等連絡用のアンケートフォームに保護者が入力したデータを学年・学級ごとに自動で並べ替えるように設定。全教員が見ることができ、チームで対応できる。
保健室の来室記録は「いつ・どこで・なぜ・どうした・どこが」を児童が選択して入力する形とした。内容を確認しながら処置の方法と対応場所を養護教諭が入力することで、誤りや漏れなくデータを蓄積できた。
教育相談情報は、従来はスクールカウンセラーから管理職に情報が回るまで時間がかかったが、クラウド化により関係者全員が同時に確認できるようになった。
最も効果的だったのは保健日誌の自動生成だ。欠席等の状況、保健室の来室記録、教育相談の記録など、生活に関わる情報を全て紐付けて集約することで、保健日誌を0秒で自動生成できるようになった。
校内研修のクラウド化にも挑戦した。教員が講師となり1人1本の研修動画を作成して投稿。視聴後にコメントを書くことで研修が完了する。学級通信の書き方講座など60本ほど投稿され、研修の時間を設けずとも、空き時間を活用できた。
デジタルサイネージにも取り組んだ。太陽光パネルの発電量を掲示するモニターを使い、タイピングソフトの結果をランキング形式で掲示したところ、児童のやる気につながった。
図書室の隣に整備されたメディアセンターは教員が映像を見ながら話し合いのできる第2職員室としても利用している。
校長のイクボス宣言の下、互いに助け合う雰囲気があったことが校務DXが進んだ要因の1つ。主幹や主任といったミドルリーダーの理解と活躍も大きい。教員のアイデアを形にするにはICT支援員の力も欠かせない。なにより明らかに時間が短縮された点やクラウドの便利さを実感したことが校務DX推進につながった。
【第98回教育委員会対象セミナー・東京:2023年7月7日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年8月7日号掲載