教育委員会対象セミナーを7月7日、東京都で開催した。世田谷区教育委員会、鴻巣市教育委員会、流山市教育委員会が教育DX、STEAM教室、教育データ連携など新たな学びに向けた取組を、杉並区立松ノ木小学校の笠原校長は職員室と保健室のクラウド化、東京都立町田高等学校の小原指導教諭は情報Ⅰの授業と評価について報告。講演内容を紹介する。
世田谷区(小学校61校・中学校29校)は、20~30年後の社会で活躍する人材に必要な力を育む上で重要な要素の1つとして教育DXを推進している。
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世田谷区の掲げる「世田谷版教育DX」では、子供とそれを取り巻くステークホルダーそれぞれの変化と連携が必要と考え、子供1人ひとりの生きる力を育むために地域全体が一体となって支援する仕組みづくりに取り組んでいる。
学び方、教員の働き方、保護者や地域の関わり方、教育委員会の支援の在り方と各主体が変わることが重要。
学校や保護者への切れ目のない対応のためのキーワードは「統合」だ。
2023年3月時点で区内の小中学校に整備された端末(iPad)は、予備機含め児童生徒用と教員用が約5万5000台。無線アクセスポイント(AP)は約2300台とかなりの分量となっており、この環境を日々円滑に活用できるようにすることは簡単なことではない。世田谷区の教育ICT推進担当は、学習系と校務系あわせて4人。劇的に拡大した学校の情報資産の維持・運用と教育DX関連の新規事業の両立が必要だ。21年度途中より業務支援委託事業者2人が常駐し、大きな戦力になっている。職員以外のICT専門要員の確保も重要と感じている。
端末の利活用が進むに連れて教室以外の活用も広がっており、AP追加の要望も増えている。
学習系ネットワークは1人1台端末用に学校から直接インターネットに接続するローカルブレイクアウト方式で整備。従来の教育センターを経由する集約型のネットワークと併用しており、今年度、統合する予定だ。
今年度4月からクラウド版の校務支援システムも導入した。Microsoft Azureのプライベートクラウド上に構築。従来の指紋認証に代えて顔認証を採用した。今回の整備は利用環境が大きく変わらない構築としており、今後、アカウントの自動処理や学校生活のデータと学習データを連携した児童生徒ダッシュボードの検討など、次のステップに向けて準備を進めている。
学校からの問い合わせは年間約2万3000件。保護者からの問合せも多く、Webフォームによる受付としている。要望や問合せに対し切れ目のない対応に向け、高度な専門技術を有するICT事業者による中長期のサポート体制を提供する「教育ICT総合運用支援委託」を導入した。
3系統あるヘルプデスクのうち学習系の2つを22年度に統合。今後は校務系ヘルプデスクも含め一本化を目指す。
ICT支援員との連携強化も図る。東京都はICT支援員に対する補助金があり、世田谷区では大規模校は週1回、小規模校には3週間に2回程度、手厚い支援を実施している。
保護者や地域と一体となって進めるために情報発信にも力を入れている。区のHPを通して、教育ICT推進の方向性や具体的な取組に関する情報を一元的に整理して提供している。
教育ICT推進の目的、全体像の共有とそのための人材育成も重要だ。各校でICTインフルエンサーをけん引役として取り組んでいる。
端末や機器は導入すれば終わりではなく、円滑な運用に伴う業務は端末などの資産が増えるほど多くなる。ICTインフラの運用・保守・サポート体制の安定維持と対応力の向上を含め単純なリプレースにはならないことが今後の課題。
全ての取組は「日々、機器やネットワークが快適に使えること」が大前提であり、インフラの安定運用と教育DX推進を持続可能な形で両立させるため、人材面と財政面のさらなる強化と考え方の整理に取り組んでいく。
【第98回教育委員会対象セミナー・東京:2023年7月7日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年8月7日号掲載