教育委員会対象セミナーを2月7日、名古屋市内で開催した。市原市教育委員会はGIGAスクールの環境づくり、渋谷区教育委員会は教育データの利活用、松阪市教育委員会はGIGAフェスタの開催、岐阜市教育委員会はデジタル・シティズンシップ教育、春日井市立藤山台小学校はクラウドと1人1台端末の活用について報告。当日の講演内容を紹介する。
2022年10月に開催された第48回全日本教育工学研究協議会(JAET大会)公開授業校の1つである愛知県春日井市立藤山台小学校の久川慶貴教諭は、クラウド・1人1台端末を活用し自分らしく学び続ける子供の育成を目指した授業実践について報告した。
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教室の様子は様変わりした。子供が自分でやることを決めて、自分たちで活動を進めている。
協働で学ぶ子、教員の下に集まる子、動画を見て学ぶ子、様々な子供たちがいて、様々な目的を持ち、必要に応じて教員を頼る。そういう光景が入り交じる教室になった。
なぜその学び方を選んだのか、自分で決めた学び方への意図や理解が大切だと伝えている。
個別に学んでいるのか、孤立していないかは丁寧に把握するようにしている。
こうした授業風景の根幹には、「その子らしく、自分らしく学べる教室にしたい」という願いがある。自分で何かを決めて選べているという感覚が重要だ。ICTや1人1台端末、クラウドは「選ぶ、決める」を支える場となっている。
ICTのメリットを享受し子供の自己決定を促すには、これまでの授業に対する感覚や見方では立ち行かなくなる場合がある。学習活動の主体を子供に委ねるには教員の「できた、できない」観を変える必要があると考えている。
これについては教育学者・梶田叡一氏の示す教育目標の3分類「達成目標・向上目標・体験目標」を参考にした。全員が達成できたかどうかに捉われすぎず、子供1人ひとりが向上しているか、その子にとって体験としての価値があるか。できる/できないの二分ではなく段階的に目標を定めて、子供自身がめあてや学び方を自己決定する学習者主体の授業につなげている。
授業のポイントは学び方を示すこと。具体的に示すことで子供自身が決められるようになる。1人1台端末やクラウドを活用すれば間接的に絶えず学び方を示し続けることができる。
毎時、Google Classroomに「課題」「ゴール」「流れ」を提示。学習の目標や内容だけでなく、過程、方法、評価といった学び方を示す。子供たちは授業の初めにClassroomの資料を参照し、各自のめあてや学習活動を決めてチャットで共有する。共有は、めあての浮かばない子の支援にもなる。各自でめあてに合わせて活動しつつも、困ったら誰が何をしているか端末を通して参考にし、直接友達や教員に相談。個別に学びつつも1人だけでは学びきれない部分は協働的に学んでいる。
学習評価のためどのようにふり返ればよいかを明記したルーブリックを設定しており、授業の最後には「めあて」「取り組んだこと」「ふり返り」を書いたポートフォリオスライドを提出して学びの記録を蓄積している。
初めは教員が前に立ってパフォーマンス課題やルーブリックを具体的に指示し、学び方を示すことが肝要だ。徐々に子供に学習活動を委ねると共に教員は立ち位置を変え伴走者として支援。学期末には学習計画を自分で立てることができるようになる。その子は今どの段階で、その子にとっての一歩は何かを考える目線が重要だ。
子供たちはめあてや学び方、ポートフォリオスライドをはじめ、未完成であっても成果物や学習に関する情報を絶えず共有している。書くよりタイピングの方が速いとノートのようにメモとして活用する子もいる。
Google JamboardやGoogle MeetのURLを載せ、学習活動の場も共有。下校後にチャットで呼びかけオンライン自習室を開く子も現れた。チャットやMeetは子供同士のつながりを支援するツールになっている。これからの人生に不可欠なものであり、禁止せず今のうちに色々な体験をさせたいと考えている。
家庭学習の内容も子供が決めている。オンライン上のつながりは学習を苦手とする子供に特に効果が大きい。デジタルドリルの問題を解き、完了画面のスクリーンショットを提出するだけで宿題が終わる。宿題提出で叱られることがなくなり、むしろ褒められるようになるとやる気につながる。学年を遡った学習もでき、少しずつ自信をつけていく様子が見られた。
教員の目標の捉えを変えること、加えてICTで子どもとつながりやすくなったことで可能になった。
学習者に任せれば子供たちは主体的になるわけではない。子供の主体性に期待しつつ、こういう授業がしたい、こういう子供になってほしい、自分らしく学んでほしいという思いを届ける努力と願いの下、子供が応え、そういう子供たちになってきたと実感している。
【第95回教育委員会対象セミナー・名古屋:2023年2月7日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年3月6日号掲載