教育委員会対象セミナーを2月7日、名古屋市内で開催した。市原市教育委員会はGIGAスクールの環境づくり、渋谷区教育委員会は教育データの利活用、松阪市教育委員会はGIGAフェスタの開催、岐阜市教育委員会はデジタル・シティズンシップ教育、春日井市立藤山台小学校はクラウドと1人1台端末の活用について報告。当日の講演内容を紹介する。
千葉県市原市教育委員会(小学校40校・中学校22校)の生田勲指導主事は、同市の全小中学校で1人1台端末の実現と教職員の意識を変えるGIGAスクール環境づくりの取組について報告した。生田氏は2020年度からGIGAスクール構想の推進役となり、マイクロソフトイノベーターエデュケーターエキスパートの資格を取得している。
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1990年からICT環境の整備を進めてきた市原市。GIGAスクールを進めるため「IChiHaRaスタイル」を2020年度に策定して次のように段階的な目標を掲げた。①導入段階としてまず慣れる②授業での活用実践として効果的で理解が深まり、かつ時短につながる授業を目指す③自宅での活用として反復学習、AIドリル学習を実践する④新たな教育実践として、学びの個別化と21世紀型スキルの育成――である。
教員がこれまでやってきた学習指導や生活指導、保護者への対応など積み上げた実践と、ICT環境を組み合わせることで、さらに深い学びや授業の改善につなげていくことを心掛けている。
本格的にGIGAスクールを進めた2020年には、ボード一体型の電子黒板(65インチ)を市内の小中学校の全普通教室へ整備した。電子黒板としての機能に加え、Android搭載で、端末接続なしでインターネットに接続ができ、オンライン会議やオンライン授業も積極的に行っている。県内では本市が初導入であった。
指導者用デジタル教科書は、市内全校にEdgeサーバを設置して使用できるようにしている。教員は市内のどの教室でも同じ環境でデジタル教科書を使用することができる。
児童生徒が使用している端末(Windows10)は2in1のキーボード付きモデルだ。児童生徒用に加えて教員と学級の数+αを整備している。1人1アカウントを発行し、児童生徒は端末を持ち帰って自宅での学習に利用している。モバイルルーターは2020に約600台を整備。児童生徒の活用以外にも、校外学習などで活用し、今後は行事での活用も予定している。
集合研修は、当初は実施せず、オンライン研修用動画を40本以上作成し、教員は動画を各自で見て、ICTの知識や技術の向上を図るよう呼び掛けた。
質問や問い合わせはPower AppsによるFAQシステムを作成し、1つ質問があると、その回答や対応策を全員で共有できるようにし、また教員全体のリテラシーが効率よく向上するよう努めた。
現場をサポートする体制として、GIGAスクールアドバイザーを設置する際に、学校現場をどのように支援するか、役割を明確にした。指導主事に同行し、授業見学してICTについて助言を行う。また市内の学校を巡回し、必要に応じて効果的なICTの活用について助言する。また、他の学校でも起きそうな課題や、役立ちそうな有益な情報は、共有を図るため整理する。
支援の内容は「市原市GIGAスクールWebマガジン」にまとめ、市内の全教員に配布した。1枚につき1つのテーマを完結させて、分かりやすくまとめた。課題を解決したその日のうちに作成し、すぐ配布するようにした。
GIGAスクールアドバイザーは各学校に寄り添い、伴走する「コーディネータ」の役割と、市内の学校の状況を把握し、進むべき方向性を示して先頭を走る「イノベータ」の役割を担う。また教育委員会は、その後方支援を行う。
授業の様子は電子黒板でそのまま録画し、Microsoft Teams上で即配信できる。
学習者用デジタル教科書はSARTRASに保証金を支払っているため、それを使って授業用動画を作成し、市内児童生徒に向けて限定公開している。これらの仕組みで宿題も出しており、端末を持ち帰り、家庭学習が進んだ。
学習定着率と学習方法を紐づけたラーニングピラミッドの考え方は教員に伝えている。定着率が高い学習方法は「Share(学びの共有)」であり、これがGIGA端末活用で最も重要である。
学びの共有の機会を増やすためにも、次年度以降、市原市は新しいGIGAスクール推進計画を進める。
【第95回教育委員会対象セミナー・名古屋:2023年2月7日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年3月6日号掲載