教育委員会対象セミナーを2月7日、名古屋市内で開催した。市原市教育委員会はGIGAスクールの環境づくり、渋谷区教育委員会は教育データの利活用、松阪市教育委員会はGIGAフェスタの開催、岐阜市教育委員会はデジタル・シティズンシップ教育、春日井市立藤山台小学校はクラウドと1人1台端末の活用について報告。当日の講演内容を紹介する。
岐阜県岐阜市教育委員会(小学校46校・中学校他23校・特別支援学校1校)の栗本光彰主幹は、デジタル・シティズンシップ教育を前提としたGIGAスクール構想の推進について報告した。
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岐阜市では2020年9月から、全小中学校の児童生徒と教員に情報端末(iPad)を配備し、MicrosoftTeamsを利用している。持ち帰りを前提としてLTE端末とし、オンライン授業も随時実施。授業支援ツールは2023年度からロイロノート・スクールを使用する予定だ。
まず使ってみようという意識でスタートしたが、何のために使うのかという基本方針を定めてGIGAスクールを推進しようと考え、2022年3月に策定された「岐阜市GIGAスクール推進計画」に、デジタル・シティズンシップ教育に基づく基本方針を盛り込んだ。
デジタル・シティズンシップとは、デジタル社会の一員として望ましい態度やスキルを育むことである。「誰一人取り残さない個別最適な学び・協働的な学びの充実」や「教職員の働き方改革」などの基本方針はすべてデジタル・シティズンシップ教育を前提としている。これらの取組を岐阜市民にも周知するため、市の広報紙で教育現場のICT活用の特集を掲載した。デジタル・シティズンシップ教育は「楽しく、かしこく、健康的にデジタル技術を使って、身のまわりや社会の問題を解決し、よりよい生活、社会をつくっていくための必要な力を身につける教育」と、分かりやすい言葉で示した。また、学校と保護者をつなぐための連絡アプリや子供の心と身体の健康アプリについても紹介。前者は欠席連絡や検温結果の記入などができ、校務支援システムや感染症情報システムとも連携しており、教員の働き方改革にもつながっている。後者は、心と身体の状態を自分で入力するものだ。
デジタル・シティズンシップ教育を浸透させるためにも、いかに情報端末を大切に使うか、授業で有効に活用するかを子供が理解することが重要だ。最初に端末を渡すときが重要なのではないかと考え、2022年度は小学校1年生で初めて端末に触れるタイミングで「GIGAびらき」を行った。
教育実習生に協力してもらい、新1年生用の情報端末のアカウント登録を行うとともに、活用方法について、寸劇で分かりやすく説明。児童は端末をどのように使うのか、また使用することで、何ができるのかのイメージできるようにした。
注意点を説明する際は「あれはしてはいけない」「怖いものは見てはいけない」等の禁止事項を伝えるのではなく、「学習に積極的に使うこと」「より良い使い方を身につけ、アイディアを共有する」等、前向きで、役立つ使い方を意識して伝えた。
デジタル・シティズンシップ教育があってこそ取り組めたものが、児童生徒同士で行うMicrosoft Teams上のコミュニケーションだ。
2023年4月からの第4期岐阜市教育振興基本計画に使用するイラストを、子供たちに作成してもらうこととし、各校から選ばれた生徒がTeams上で会議を行った。オンライン会議で主催者が説明している最中にも、子供たちはチャットで意見交換を行った。質問やその回答方法もオンラインで進行し、各自で作成するイラストもTeams上で共有して意見や感想を送り合った。対面での打ち合わせや会議はなかったが、オンライン上でのやりとりそのものが、デジタル・シティズンシップ教育になっていた。
もちろん問題が起こることもあるが、そこで禁止にはしない。その都度、学級指導や学校指導を行っている。これも、デジタル・シティズンシップ教育という目標が明確であるからこそである。
デジタル・シティズンシップ教育は学校だけでは完結しない。保護者の理解と協力も必須である。
そこで、各家庭に「GIGAびらき」の活動報告をするとともに、子供たちがデジタル社会に参画していく中で、大人が関わることの重要性を呼びかけた。PTA総会でもデジタル・シティズンシップ教育の一環として端末を学校や家庭で積極的に学習活動に使うことや、責任をもって大切に使うことも伝えた。
情報端末の使用に対し、ルールを示して保護者からサインをもらうとともに、子供たちへのメッセージを発してもらうことも依頼。子供たちに責任をもって使う自覚を促すことができた。このルールも、デジタル・シティズンシップを前提とした責任ある活用のためのルールであり、禁止事項の羅列ではない。
来年度は「GIGAびらき」を市内全ての小学校で行う予定だ。市民や保護者の理解と協力を得ながら、デジタル・シティズンシップを育むため、情報端末を積極的に活用していきたい。
【第95回教育委員会対象セミナー・名古屋:2023年2月7日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年3月6日号掲載