教育委員会対象セミナー「GIGAスクール構想 ICT機器の整備・活用」を3月1日神戸、3月9日福岡、3月16日静岡で開催。講演内容の一部を報告する。神戸開催は初。
静岡県の中央に位置する川根本町は約90%が森林だ。「日本で最も美しい村連合」に加盟し、本州で唯一、原生自然環境保全地域に指定されている。川根本町教育委員会(小学校4校、中学校2校)では2017年度からiPadを1人1台配備し、小規模校のメリットを生かす教育に取り組んでいる。渡邉室長は「計画当初は苦労もあったが4年間でここまで進むことができたのは、使いやすさを優先した整備と支援員の役割が大きいと考えている」と話す。
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全小中学校で児童生徒数減が予測されている本町では、「小規模校のメリットの最大化、小規模校のデメリットの最小化」を合言葉に、中山間地域のモデルの創造を目指している。
2015~17年度は各校1名の教員が先進地域を積極的に視察。2017年度から5年計画でICT教育推進事業に着手し、今年が4年目。全教室とグラウンド、体育館にWiFi配備、大型提示装置の全教室および特別教室2室分配備、校務支援システムの導入等を進めている。iPadは小中学校全校に同時に配備して持ち帰りも実施。小学校入学時から中学校卒業まで自分のものとして活用する。
川根本町ICT教育推進事業協議会は、教育委員会、校長会、企業体(ベネッセ、KCCS、TBBS)が連携して進めている。
サポート体制にも力を入れている。ベネッセやKCCSが全国の事例を収集し、町内に本社があるTBBSがインフラを支援。ICT支援員はのべ4人が各校月6日程度・1日7時間45分勤務で支援。授業補助、情報モラル指導サポート、教材作成、プログラミング学習支援、校務情報化支援などを行っている。
iOSアプリは「MiyagiTouch」始め無料のものを活用するとともに、学校から要望がありICT支援員が検証して問題がなければ、校長権限でダウンロードも認めている。
協働学習やドリル学習は「ミライシード」で進めている。さらに「作成・共有・閲覧」ができる川根本町の独自アプリ「川根シード」をKCCSが開発した。
プログラミング教育は、年間指導計画を作成。教材はタコロボ、EV3などを用意。また、2018年度から静岡大学情報学部の学生が1日2時間、計3回のプログラミング教育を支援する事業も開始。次年度も継続する。川根本町地域ICTクラブも設置した。
これらの取組により、2018年度には全小中学校が「学校情報化優良校」に認定。さらに静岡県初の「学校情報化先進地域」として表彰された。
コロナ禍による休校期間、中学校では自主的にZoomを活用して双方向オンライン授業を行うことができた。静岡県の公立中学校としては、先進的な取組であった。その後、長期療養児にもZoomで教室と病室を結んで授業を行うことが可能になり、コロナ禍における中学校教員による挑戦は大きな成果を生み出している。
本町の小中学校では、川根本町型問題解決学習に日常的に取り組んでいる。授業支援ツール「オクリンク」で個人の考えをまとめ、教員やクラス全体に提出・共有。思考ツール「ムーブノート」で考えを整理。個別学習のドリル学習は習熟度に合わせて取り組むことができる。考えの可視化による対話の充実や観察した内容をまとめた表現、聞き手を意識してわかりやすくプレゼンテーションする活動も根付いている。YouTubeも一定の制限を設けながら自由に活用している。家庭学習でも、オクリンク、ムーブノート、ドリルに取り組むことができる。児童生徒はICTを活用して考えを共有・表現し、議論ができるようになるとともに、わかりやすくプレゼンテーションする力もついている。タイピング技能も向上し、小学校3年生でブラインドタッチができる子もいる。今後は、家庭学習での個別学習や反転学習など、教員の指導力向上に取り組む。【講師】川根本町教育委員会教育総務課教育総務室長・渡邉哲也氏
【第70回教育委員会対象セミナー・静岡:2021年3月16日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年4月5日号掲載