教育委員会対象セミナー「GIGAスクール構想 ICT機器の整備・活用」を3月1日神戸、3月9日福岡、3月16日静岡で開催。講演内容の一部を報告する。神戸開催は初。
認知科学者でありジグソー法やPBLなど学習者が主体的に学びを深める協働学習を研究している益川教授は1人1台端末による対話を重視した授業デザインについて話した。
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社会全体の動きがスピード感を増しており、今、「知のギャップ問題」が起こっている。知を積み重ねて様々な科学技術を手に入れて発展してきたが、その発展に伴い簡単に解決できない問題が生じ、持続可能な社会に向けて、さらに新たな知を重ねていかなければならならず、そのスピードが加速している。GIGAスクール構想の前倒しもその1つ。コロナ禍という新たな問題により1人1台端末時代の到来が早まった。それに合わせた取組が必要だ。
2018年のPISAでは「デジタル読解力」がCBTで測定された。ここで日本は大幅に順位を下げた。「イースター島が消滅した理由」について、複数のWebサイトをタブで切り替えて読み、考える内容で、様々な情報から自分の考えを構築していく力=トランスリテラシーが求められるものだ。従来の国語の読解力が拡張された。今後、重視される力は「日々生じる新たな課題を解決するため、断片的な知を組み合わせて自分なりの考えを構築すること」である。正しい情報を選択する=答え探しだけでは不足で、答え作りが求められている。正しい情報を複数組み合わせる情報の創造能力すなわち新たな価値を見出す思考力が重要だ。
行動レベルではなく、1人ひとりの学びの内容的な深まりを見取ることが「学習履歴」の役割である。思考の深まりによりどんな問いが生まれ、他人とどう考えが異なったのかを把握して次の授業づくりに生かす。何を知りたいのかを子供自らが見つけ出すことに役立てることができる。学習活動としてはグループや少人数によるプロジェクト学習があげられる。問いを共有して調べ、考え、対話してさらに各方面へと発展して調べ、自分の考えを少しずつ深め、45分間で自分の答えをつくる、という活動が極めて大事である。
子供の思考を活性化するためには、問いの立て方もポイントになる。「〇〇について調べて説明して」、「〇〇がわからない、どうしよう?」前者と後者の問いでは、後者のほうが、学びが深まり平均点も高かった。学びの進め方が異なるからだ。前者は調べたり考えたりした内容を紹介するにとどまるが、後者は、解決に向けて様々な方法を自ら考えようとする。不完全な理解をそのまま提示して質問し合うほうが新たなアイデアが生まれやすい。
本学でも今年の授業はGoogleClassroomとGoogleMeetを使い、すべてオンラインで行った。4人ずつ4グループに分けて問いを立て、複数の資料を担当に分かれて読解して資料にまとめてグループ内で情報を共有した。しかしオンラインでは限界がある。対面では、グループ外のつぶやきに触発されることもあるがオンラインのスピーカー越しでは聞こえない。発言するときの身振り手振りでその考えをどうとらえているのかを判断できたが、テキスト入力による文言ではわからない。このような限界を理解して利用する必要がある。これらを補完する種々のツールは役立つが、そのツール活用の力量がない低学年ほど大変である。
文部科学省「新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業」で広島県安芸太田町は「授業モニタリングシステム」により対話を可視化(関連2面)。公開授業は、遠隔からオンラインで視聴し、子供たちの対話をしっかり聞き取ることができた。別室から視聴していた教員間では、授業を見ながらリアルタイムに感想やコメントを伝え合うことができ、授業デザインを見直して後日、他の教員が再度チャレンジした。今だからこそ必要なICT活用である。
令和の日本型学校教育は「個別最適な学び」「協働的な学び」双方が一体的に充実すること。それぞれ実施すればよいわけではない、という点がポイントだ。個別最適な学びにより協働的な学びが充実する、協働的な学びによりさらに主体的に個別最適な学びで深堀りする、というサイクルづくりが重要。個別最適な学びでドリルに着手するのも良いが、AIドリルで底辺層は救えない。AIドリル任せにして子供の責任にしないようにしなければならず、AI頼りの評価ではなく、教員による判断・評価につなげ、「AI」よりも「IA=Intelligence Amplifiter(知識増幅)」の視点での取組・活用をめざしたい。【講師】聖心女子大学教授・益川弘如氏
【第70回教育委員会対象セミナー・静岡:2021年3月16日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年4月5日号掲載