2月13日、名古屋市内で本セミナーを開催。教育委員会担当や教員が約100名来場した。
新学習指導要領では、統計教育における統計的問題解決などが重視される。柗元教授は新たに中学校で教えることになった「箱ひげ図」などの授業例などを紹介した。
情報化社会で大量のデータがあふれる中、情報の真贋を見抜き、不確定な事象について統計的・確率的な資料を読み取り、判断するための見方や考え方を身につける必要がある。このような背景を受けて新学習指導要領では、算数・数学に統計や確率に関わる「データの活用」領域が新設され、「統計的問題解決の方法」と「批判的な考察」の2つのキーワードが新たに登場した。
小学校では、複数系列のグラフや複合グラフを扱うなど肉厚な内容となる。中学校では中2で教えていた統計的確率を中1で、高等学校で教えていた「箱ひげ図」を中2で扱う。
箱ひげ図はアメリカの数学者・統計学者であるジョン・テューキーが1970年代に提唱した新しい表現。データの中に極端にかけ離れた値があると、最大値や最小値が大きく変化し、範囲はその影響を受けやすい。その点、箱ひげ図の箱の部分(四分位範囲)は影響をほとんど受けないという性質がある。
岐阜の7月の最高気温を20世紀と21世紀で、箱ひげ図にして比較すると、箱の位置が21世紀は高い方にシフトしており、地球温暖化あるいはヒートアイランド現象の進行がよみとれる。
初期指導は箱ひげ図を手書きすることが大事だが、何度も箱ひげ図を描くのは大変な作業だ。ICTを活用すれば、すぐに箱ひげ図を描くことができる。ヒストグラムや箱ひげ図を作成する際には、「statlook(スタットルック)」を活用する。静岡大学柗元研究室Webサイト内の統計的思考力からダウンロードまたはブラウザ上で使うことができ、YouTubeにUPされている取扱説明書もリンクされている(https://wwp.shizuoka.ac.jp/matsugen/)。
授業で統計を扱う場合、データ集めに苦労するが、総務省統計局「なるほど統計学園」や気象庁には、さまざまなデータが用意されている。その統計データをstatlookにコピーして貼り付けると、度数分布表やヒストグラム、箱ひげ図が作成でき、これまで図表の作成に費やしていた時間で分析や討論ができる。
静岡県浜松市立雄踏小学校では、修学旅行の小遣いの目安はいくらが妥当かという課題を提示し、統計的に課題解決する活動を行った。児童にアンケート行い、データを集計。そのデータを基に統計ソフトを使って、度数分布表やヒストグラムを作成した。
東京都世田谷区立用賀中学校では、統計ソフトを使って、箱ひげ図とヒストグラムを比較し、それぞれのわかりやすい点などを発表。比較することで、それぞれの理解がより深まった。生徒は「ヒストグラムのよさは各階級の度数やどこが多いかわかること、箱ひげ図のよさは最大値・最小値・中央値や範囲が分かること」に気付いていた。
2016年度全国学力学習状況調査では、2つの小学校の図書の貸出冊数をグラフ化し、「グラフを見てAくんが語っている内容は正しいか」に対して正しくない理由を記述する問題(小6)で、正答率は25%。他者の主張に対して疑問を持ち、その根拠をグラフから読み取ることに困難な子供が多い。また、2003年PISA調査で「グラフについて述べている発言は適切か」という問題では、日本の高校生の完全正答率は11・4%で国際平均よりも低い。
私たちの研究チームで、子供たちが批判的思考をどれぐらいできるかを調査した。小5から高2を対象に、動物園の入園者数のグラフを示し、「昨日は一昨日と比べて、入園者数がものすごく増えているね」という発言について賛成か反対かを聞いた。グラフの長さは倍ぐらい違うが、よく見れば、一昨日は500人、昨日は510人で10人増えただけである。しかし、「一昨日よりも入園者数が増えているので賛成」という回答も多く見られた。批判的に考察した結果を、きちんと述べられる子供を育てる必要がある。【講師】静岡大学教授 柗元新一郎氏
【第65回教育委員会対象セミナー・名古屋:2020年2月13日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年3月2日号掲載