2月24日、大阪市のCIVI研修センター新大阪東で、第4回私立公立高等学校IT活用セミナーが開催された。ICT環境整備や機器の活用について、5人の講師によって行われた講演の内容を紹介する。
常翔学園中学校・高等学校のICT教育推進プロジェクトの委員長を務める田代浩和教頭は、同校でのICT導入の経緯と教育の特色について報告した。
同校では平成27年度に情報端末を活用できる環境の整備を決定。同年4月に推進プロジェクトを発足。28年度に全教員にiPadを配布し、生徒貸出用にiPad100台を整備し活用検証を開始。全校舎に無線LANを整備した。そして29年4月に中学・高校の全生徒にiPadを配布した。整備に並行して推進プロジェクトメンバーが「JOSHO ICTプロジェクト通信」を発行し、今後のICT教育の必要性を教員に伝えてきた。
導入前の教員へのアンケートでは、ICT活用に反対の教員が17%。理由は「生徒がPCやインターネットに依存しすぎるのが良くない」が最多だった。ICTを全く活用していない教員が35%、授業スタイルは「ほぼ全て講義形式」が56%、学校が今後進む道として、「ICTは必要だが、単なる1ツールであってあまりエネルギーを割くべきではない」が6割とそれぞれ最多となるなど、当時はICT活用に積極的な雰囲気ではなかった。
そんな中、同校の特色教育であるキャリア教育、グローバル教育、アクティブ・ラーニング(A・L)をICTの活用でバックアップするために、ICT教育を推進した。
生徒用にiPadを選んだ理由は、起動が速く、価格が手ごろで壊れにくく、セキュリティー面でも安心なため。
管理は無料の「Apple School Manager」のMDM(モバイルデバイス管理機能)を活用。生徒のiPadから「App Store」を削除して勝手にアプリをインストールできないようにし、担当の教員だけが無線LAN経由でインストールできる体制とした。来年度からはフィルタリングソフト「i―フィルター」を導入し、家庭においても有害サイトを閲覧できないようにして犯罪等から生徒を守るようにする。iPad配布の際には同時に「情報倫理ハンドブック」を渡し、情報モラル教育をした。
最小限の使用ルールを設定した。中学では1年の一学期はカメラを使用できないように設定した。高校では著作権や肖像権について特に指導した。
iPadの導入で、授業中の教員と生徒の相互通信、ノートを撮影して送付、授業前の予習用動画での学習などができるようになった。生徒が授業や家庭学習の課題を送信すると、教員は一覧で閲覧できる。今後はiPadを活用してオンラインでスカイプによる英会話の授業も行う。アプリは、授業中に主にロイロノート、授業外で主にClassiを使っている。
どの教科でiPadを使っているかを生徒にアンケートすると、英語が最も多い。学習面の変化を聞くと、「とても良くなった」「良くなった」が多くを占めた。iPadの自宅での利用状況は、「よく利用している」「ときどき利用している」が未回答を除くとほとんどだった。
取組の成果を発表するため、公開授業を行い、全国から200名以上の教員が集まった。講演会や教科別研究協議会も開催し、今後の授業の在り方について研究した。
同校にはICT支援員がおらず、ICT係の教員3名がトラブルに対応している。圧倒的に多いのはパスワード忘れだ。
ICTの導入まではハード面の問題だが、導入後は授業デザインやA・Lを何のために行うのかといったソフト面が重要になる。
仕事でなかなか学校に来られない保護者はいる。ICTを活用して面談等をするようなことも検討したい。今後の教育にはICT教育はもちろん、高いレベルの英語力、多様性の中で議論するためのA・Lなどが必要になる。10年・20年先の社会を見据え、取り組まなければならない。
【講師】常翔学園中学校・高等学校・田代浩和教頭
【第4回私立公立高等学校IT活用セミナー・大阪:2018年2月24日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2018年4月2日号掲載