総括パネル討論「社会に出て求められる資質・能力」では、企業、大学、高等学校、中学校の立場から討議した。企業で今まさに求められている力は、新学習指導要領で求められている力であることが指摘された。
薩摩川内市立川内中央中学校では「社会に出て必要な資質・能力」を3つの能力と12の能力要素(後述)に分類。独自科目「ふるさとコミュニケーション科」と各教科・特別活動・道徳を連携して、学力の3層構造を踏まえ、3つの取組「新聞作り」「花プレゼント」「綱でつながる思い」それぞれにおいて、12能力要素で特に育みたい力を分類して授業改善に取り組んでいる。辻校長は、「情報活用能力」は「生きる力」とほぼ同じ。その力を育むための環境整備や授業づくりが必要であるが、この流れを知らない教員もおり、周知が必要である、と語る。
【3つの能力と12の能力要素】▼前に踏み出す力(アクション)=主体性、働きかけ力、実行力 ▼考え抜く力(シンキング)=課題発見力、計画力、想像力 ▼チームで働く力(チームワーク)=発信力、傾聴力、柔軟性、状況把握力、規律力、ストレスコントロール力
埼玉県立浦和高等学校では、高レベルの文武両道である「武昌文尚」を掲げ、「少なくとも二兎を追う」「無理難題に挑戦する」「10年後、20年後を見据える」生徒の育の育成を目指し、学習、行事、部活それぞれにおいて身に付けるための取組を意識して展開。
学習面では、協調学習やディベート、生徒が教師役になるなどに取り組んでいる。
新潟大学では、大学卒業生と企業が求める能力において特にギャップに大きい項目に焦点をあて、汎用的能力の到達目標を設定して人材育成に取り組んでいる。大きな目標は次の3つ。▼課題を発見し、それを解決する能力 ▼課題解決に必要な知識・技能を主体的に学修する能力 ▼課題に協働的に取り組むためのコミュニケーション能力
教職入門では6名程度のグループで常に議論し、「知識習得」「自分なりの再構成、表現」「他者と共有」「既有知識との接続」を意識。
生活科学総合演習では、1年次から「知識構成型ジグソー」を取り入れている。
「日本は外国人労働者を今以上に受け入れるべきか」を課題とし、受け入れ状況、日本の人口減少、市場規模の縮小、外国人労働者の待遇の4視点から課題解決に取り組んだ。
新潟地域研究では、注目の新エネルギーである新潟のメタンハイトレード(化石燃料の一種)をテーマに、専門家やメディアを通して「情報受容」「情報再構成」「省察」を通して発信。
企業との連携で学外学修にも取り組み、「地域を含む学校の教育活動を支える営みを体験し理解を深める」ほかのルーブリックも定めている。
同社では平成25年、人事制度及び人事考課を再構築した。理由は「これまで高度な技術・技能だと思っていた力が基礎的・基本的なものになりつつある」と考えたからだ。企業で必要な力を分析すると、「主体的」「協力的」「実行力」「発想力」「情報収集力」など、新学習指導要領で育成が求められているキーワードを重なる。その中で最も重要な力は「思いやりと好奇心」であると指摘。これがあると会社の雰囲気が良くなり、結果として業績の向上につながるという。リテラシーについては「スマホやタブレットのみで仕事は成立しない。少子化が進むほど1人に求められる力が高くなる、という点を踏まえた教育が望まれる」と語った。
企業理念を「情報の価値化」「知の競争化」の融合としている同社が求める「人財」は「誠実さに基づく行動」「チームへの貢献」「意志を持ってやり抜く力」「自ら変化し続ける」「プロ意識に基づく責任感」「向上心」など。これらは「主体的に学習に取り組む力」「思考力・判断力・表現力」など新学習指導要領で求められる力と重なる、という。「現在、企業間コミュニケーションの中心となっているメールだが、メールでやりとりする力は、SNSでは身につかない。学校間交流など他校と遠隔でコミュニケーションする活動を積極的に取り入れてほしい。プログラミング教育において論理的にトライ&エラーを繰り返して修正、ミッションを達成できる力も重要」と述べた。
フロアからは「新学習指導要領の重要性が改めて分かった。目的意識を高めるためにも企業との交流は重要。小中連携の方法を改めて整理するなど学びの連続性を意識しやすい仕組みが必要だ」という意見があった。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2018年4月2日号掲載