2月2日、福岡市のパピヨン24ガスホールで第46回教育委員会対象セミナーが開催された。また2月15日、名古屋市の名古屋国際センターで第47回教育委員会対象セミナーが開催された。各講演の内容を紹介する。次回の第48回教育委員会対象セミナーは、3月24日に金沢市の金沢商工会議所で開催される。
愛媛県西条市教育委員会(小学校26校、児童8507名。中学校10校、生徒717名。うち3校をモデル校に指定)の渡部誉専門員兼指導係長兼教育CIO補佐官は、同市が平成31年度までの3年間、文部科学省、総務省と連携して取り組む次世代型スマートスクールについて報告した。
本事業はICTを使って学校の課題を解消、軽減するために必要な理想的な活用を探ろうというもの。総務省の「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」は学習系システムと校務系システムとの連携に必要な技術的事項の検討・実装、実装したシステムの導入・運用効果、課題の検証を行う。文部科学省の「次世代学校支援モデル構築事業」は、そのシステムを使って学習系と校務系のデータを連携・活用し、教育の質の向上に関する実証をする。
この事業には同市を含め5自治体が実証地域として参画し、それぞれが企業とアライアンスを組んで行っている。西条市では学習系はベネッセコーポレーション、校務系はスズキ教育ソフトとミライム、連携システム事業は四国通建と取り組んでいる。
教育の情報化、校務の情報化を進めることで、平成28年度末時点で全国学力・学習状況調査の結果は11・0ポイント上昇、校務に係る時間は教員1人当たり年間114・2時間短縮した。
具体的な取組として、可視化した学校にある様々なデータをどのように活用するかが今回の事業のミッションだ。西条市では、学習系システムや校務系システムで蓄積されたデータを必要なものだけ蓄積して学校でもわかりやすく見やすいように、診察カルテのような形で表現することを目指している。
時間や場所にとらわれずに校務などができるテレワークの運用も始めた。さらに、教職員が校務系のネットワークで教職員用タブレットPCを使い、教室で子供たちの出欠席を取ったり、生徒指導に活用したりすることをイメージしている。将来的には顔認証の導入も検討している。
渡部氏は市の教育系ネットワーク環境について「ほぼクラウド」と表現。ベストな環境と考えている。学校にはサーバがない。クラウド「Microsoft Azure」上に学習系のシステムや校務系のシステム、パソコン教室の授業支援システムなどほぼ全てを格納。クラウドと「Express Route」という専用線で結ぶことで、35校(休校1校除く)がスムーズに使えている。セキュアなオンライン結合により安全で、コストも中長期的に見れば削減できる。
テレワークシステムは、外部接続用の校務情報系ネットワークと内部だけの校務系ネットワークを2層、3層に分けて運用している。二要素認証だ。校務支援システムを校内で使うときも、ネットワークを分けてインターネット環境を分離。デスクトップを仮想化(VDI)して運用。職場のPCのデスクトップと同じ環境でどこででも作業ができると教職員にも好評だ。
この他、2校間でWEB会議システムと大型スクリーンを使って教室をつなぎ、合同授業をする「バーチャルクラスルーム」を行っている。地方創生にICTを活用しようという取組で、過疎化に悩む地域としては大きな可能性を感じているところだ。
今後、実証事業は3年間かけて全国標準化し、それ以降に全国への普及を目指すことになる。校務支援でも学習支援でもなく、それを融合したような新しい価値のあるICTの活用によって、教職員の業務負担がより軽減し、子供たちへの指導、学校経営がわかりやすくなる。その成果から、エビデンスに基づいた次の施策ができるという仕組みを作り上げていきたい。一番の目標はどこまで教職員の満足感を高められるかだと考えている。
【講師】愛媛県西条市教育委員会学校教育課・渡部誉専門員兼指導係長兼教育CIO補佐官
【第46回教育委員会対象セミナー・福岡:2018年2月2日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2018年3月5日号掲載