学校教育法では、「校長は校務をつかさどり、所属職員を監督する」とある。いかにも簡潔な表記だが、実際のところは学校運営上必要な全ての案件を、リーガルマインドを念頭に適切に判断し、処理しなければならない。しかも、結果だけでなくプロセスも含め、他人任せにはなかなかできないのが現状だ。
学校の管理職ほど多岐にわたる校務を掌理し、直接的に関与する職業は他に例をみないのではないかと思う。
一方、自治体の首長をはじめおよそ組織のトップは、目標や方針を指示すると関係部署が実働する間接的関与で、結果のみに責任を負っている。先般、大阪市の小学校に配属されていた民間人校長が、早々と職場離脱したが、筆者から言わすと「考えが甘い!」の一言に尽きる。
学校のリーダーには、判断力や企画運営力など、それなりの資質に加え、学校運営全般にわたる深い造詣と率先垂範できる力が必要となる。トップの口三味線だけでは、なかなか組織は動くものではない。
今回のテーマ「健康教育」の充実も、数多くある校務の一つで、養護教諭(保健主事・保健主任)だけに任せきりにすることのできない「いのちと生き方」に関わる課題と考えている。
縁の下の「0学年」
健康教育を語るとき、養護教諭の存在を抜きには語れない。校長在職中は、学年に所属しない養護教諭をはじめ、事務職や校務員等を「0学年」と称して親睦会を組織するのが常だった。学校づくりを縁の下で支える「0学年」のフットワークの良し悪しは、教育環境に与える影響が大きく、実はこの人間関係が学校運営をより円滑にする。
さて、養護教諭の職務は多様で、日常の保健指導や救急処置に加え、学校三師と連携しながらの健康診断の計画・実施や、学校保健委員会の立案・運営等、保健室経営全般にわたる。単独配置がほとんどで専門的な相談相手はなく、その意味では孤独だ。
また、近年においては、いじめ不登校や虐待の相談活動、特別支援に関わる指導、生徒指導上課題の多い生徒の対応等、心理面でのサポートも求められている。
養教に共感する デリカシーが重要
校長として大切にしなければならないのは、これらの職務内容を十分理解することに加え、養護教諭ならではの教育相談の深刻さ、受け取る重さを共感する「デリカシー」である。こまめに養護教諭と情報交流を重ね、平素から保健室の状況と課題の把握に努めることが必要だ。
安心感を与える
学校の責任者として寄り添う配慮は、「養護教諭の苦労や職務をトップが理解してくれている」という安心感につながり、さらには適切な助言や励ましが心的エネルギーを高め、保健室経営全般の活性化につながり、健康教育への注目度を増す。
理想としては、保健室活動の延長に児童生徒が主体的に自らの健康課題に気づき、生涯にわたり実生活の中で自己管理する力を育成することにつながることと期待している。
前田 勉
前:大阪府高槻市校長会会長
現:大阪青凌中学校・高等学校入試広報部
【2013年8月19日号】
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