8月23日、教育家庭新聞社主催で第42回教育委員会対象セミナー(岡山開催)が開催された。当日は多数の教育関係者が参集し、ICTを活用した教育事例を共有。積極的な情報交換が行われた。
西条市教育委員会 学校教育課・ 渡部誉指導係長 |
愛媛県西条市では校務支援システムやグループウェアをクラウドで活用できる仕組みを今年度から構築、活用を開始している。渡部氏は現在の教育の情報化に関する進捗状況や特徴ある取組み、予算確保のノウハウについて報告した。
小学校25校、中学校10校、1学年約千人規模である西条市では、平成27年度に全小中学校の普通教室に電子黒板を導入した。小中学校の全特別支援学級と一部のモデル校の通常学級に1人1台の情報端末を配備し、主要教科のデジタル教科書と校務支援システム、テレワークシステムを導入して第一期整備を完了させた。
校務用PCを起動するとグループウェアが自動的に立ち上がる。トップページには掲示板やメッセージ、スケジュールなどすべての情報が集約されている。これまではFAX中心でやりとりしていた教育委員会との連絡もシステム上でできるようになり、校務軽減が図られた。「校務支援システムが導入されたときの教員の感動の声は今でも忘れられない。1つひとつの機能を説明すると手をたたいて喜ぶ教員もいた」と語る。児童生徒の名簿情報の一元化で入力の重複がなくなり、学校にとって非常に大きな改革になった。中学校教員に特に評判が良かったのは、高等学校に提出する調査票の電子化だ。
校務支援システムとグループウェア導入の際には、システムを安全に活用できる仕組みが必要であると考え、官公庁ではほぼ実現されているネットワーク分離も実施した。1台のPCで通常領域と校務領域を分けて活用できるようにし、外部から接触できない仕組みとしてゼロデイ攻撃などに対応した。
ネットワークは4段階構成で、最もセキュアなエリアは外部からのネットワークを論理的に遮断。校務系と校務情報系の間では、データを安全にやりとりする仕組みも導入。サイバー攻撃など新たな脅威の対策をした。現在はワンタイムパスワードによる要素認証でログインしているが、今後は生体認証によってログインできる仕組みを構想している。
学習用データはパブリッククラウドサービス「Microsoft Azure」に収納。100M回線×2で市役所経由でアクセスして、デジタルコンテンツやデジタル教科書などを活用しており、PC室のサーバメンテナンスが不要になった。データ量により課金されるため、教育委員会サーバと使い分けている。
「中でも欠かせないのがICT支援員である。常駐が理想だが、現在は11人体制で支援員1人につき3~5校を巡回している。教員の信頼も厚くモチベーション向上に役立っている」と語る。企業からの派遣だが、西条市内在住を条件とした。
導入後にアンケート調査をしたところ、導入説明の際には強烈に反対していた教員が「校務支援システムやテレワークのない学校はもう考えられない」と回答するほど活用が浸透している。学校保健でも効率化が図られた。
毎年効果測定を行っているが、校務支援システムの導入後4年目で114時間の短縮と学力11ポイントの向上を図ることができた。実感レベルでは、満足度はかなり高いと話す。重要目標達成指標は「学力向上平均7ポイントアップ」「ICT活用による教員と児童のふれあいの時間120時間/年」「ICTを活用した利用者満足度90%以上」と設定した。
導入のための予算確保は簡単ではなかった。モデル校、機運の醸成、財政確保などそれぞれ調整が必要であり、PTAや議員、地域の方と連携して教育の情報化を促進する流れを作った。決定後は市長自ら全ての地域をまわって施策説明も行った。
「過疎化が進む中、学校を統廃合しない、というのが西条市の方針。それに向けて地方創生を目指す」と語る。その1つとして、遠隔合同授業にもチャレンジ。本年11月24日には、田野小学校・田滝小学校・徳田小学校・丹原小学校で公開授業も予定している。
【講師】西条市教育委員会学校教育課・専門員兼指導係長・渡部誉氏
【第42回教育委員会対象セミナー・岡山:2017年8月23日】