今年度初となる第40回教育委員会対象セミナーが7月4日、東京都内で開催され約110名の教育委員会・教員が参加した。セルラーモデルの情報端末を児童生徒用に約8000台導入する渋谷区教育委員会や初めて校務支援システムを導入した那須塩原市教育委員会などICT環境の整備・計画・活用に関する事例が報告された。今年度セミナー予定は教育家庭新聞Web(www.kknews.co.jp)へ
渋谷区教育委員会 加藤聖記副参事 |
平成28年度まで渋谷区の学校のICT環境は、全国の自治体と比べても進んでいる方ではなかった。「ICTから渋谷区の教育を変えていこう」と区長自らが主導し、区立小中学校(小学校18校、中学校8校)の全児童生徒と教員に1人1台のタブレット端末の貸与を決定。平成29年9月から児童生徒用約8000台、教師用約600台のタブレット端末を導入する。
渋谷区教育委員会の加藤聖記氏によると「貸与されるタブレットは自宅に持ち帰ることを想定。校務も学習もすべてクラウド化し、NTTドコモのセルラー回線で、いつでも、どこでもインターネットに接続できる環境を構築」する予定だ。導入に向けて、平成29年度当初予算に約7億8000万円を計上した。
平成28年度は代々木山谷小学校に120台のタブレット端末を導入し、学習効果や動作環境などを検証。5年生は1人1台のタブレット端末を持ち帰って活用した。
「この検証では、セルラー回線が問題なくつながるかという点を重視した。児童が一斉にタブレット端末で動画を見ても大丈夫か、周辺住民の電話回線に支障は生じないかなどを確かめた」
セルラー回線としたのは、タブレット端末を家庭学習でも使用するため。Wi-Fiでは家庭環境による差が生じやすい。そこで、渋谷区のすべての家庭が同じ条件でタブレット端末を使える環境を求めた。
このセルラー回線は、SIMカードとLTE回線を使用。Youtubeは視聴できないようにするなど通信制限を設ける予定だ。
タブレット端末は富士通の「ARROWS」とした。小学1年生から使うこともあり、児童が落としても壊れにくいよう、耐衝撃性・防滴性・防塵性の高さを採用の決め手とした。28年度に使用した代々木山谷小では堅牢性を実証。児童が壊したケースは水没の2件のみであった。加藤氏は「タブレット端末を1人に1台貸与したことで、自分の持ち物という意識が生まれ、大事に扱うようになったのでは」と考察する。頑丈なタブレット端末は重たい、という声もあったが、落として壊した端末が全体数の3割を超えた事例を聞き、「壊れにくさ」を優先した。
放課後クラブにもタブレット端末を配備。今夏には放課後クラブの指導員対象の研修を行う。特別支援教室専門のICT支援員も配置する予定だ。
協働学習ソフトは、互いの考えが分かりやすく、自分の意見が述べやすいものを選定。代々木山谷小では、教員や他の児童から送られるコメントが励みになり、学習意欲向上につながった。
個別学習ソフトは児童生徒の学習状態を効果的に把握することができるものとした。全員に同じ課題を出すのではなく、個々に応じた課題を設定することで家庭学習に活かす。
代々木山谷小でタブレット端末を自宅に持ち帰って活用した際、顕著な学習効果が見られたのはプログラミングだ。限られた授業時間に複数の児童で使い回すより、好きなだけ1人でプログラミングソフトを動かすと覚える速さが違うという。渋谷区ではプログラミング教育を推進しており、タブレット端末もキーボード付きにした。そのためキーボード操作の向上も期待される。
デジタル教科書は教員用のみとし、小学校は国語・算数・理科・社会、中学校は国語・数学・理科・社会・英語を導入。電子黒板はプロジェクター型を、すべての小中学校の普通教室に設置。特別教室にも2台ずつ設置する。
これまで渋谷区はPC教室のみ、電子黒板を設置していたが一気に普及が図られる。
「このICT化の取組を渋谷だけで終わらせず、全国の標準モデルとなるものを渋谷から発信する」と、官民一体の取組で、渋谷の特色を生かした「渋谷モデル」の構築を目指す。得られた成果や課題を可視化することで、他の自治体でも参考になるような情報を提供していきたいと語った。
【講師】渋谷区教育委員会 教育振興部 加藤聖記副参事
【第40回教育委員会対象セミナー・東京:2017年7月4日】