教育委員会対象セミナーを10月3日に熊本市内で、10月13日に金沢市内で開催。堀田龍也教授・東北大学大学院・東京学芸大学大学院、大久保紀一朗講師・京都教育大学教職キャリア高度化センター、4つの教育委員会と3つの小学校、中学校、高等学校が登壇し、次のフェーズに向けたICT活用について報告した。
2021年度まで小学校教員だった大久保氏は1人1台端末が求められる社会背景と今後求められる授業観・学習観について講演した。
スマートフォンやメッセージアプリ、電車の乗り換え案内などかつてはなかったが、今はないと困るものは多い。身の回りにある道具が変わると行動も変わる。ネット検索は当初、子供の思考を奪うと言われていたが、今は調べた情報を整理して自分なりの考えをまとめる学びが定着している。生成AIも同様に、これを使ってどのように学びを深めていくのかの議論が始まっている。
「18歳意識調査」第20回(日本財団)によると、他国と比較して日本は社会への当事者意識が低い。
これは日本社会全体の課題である。ランドセルをキャリーバックのように持ち運べる「さんぽセル」を子供たちが発表したとき、大人から多くの批判があった。このような環境では「自分で変えようと思う」意識は育たない。挑戦やトライアンドエラーを歓迎する雰囲気の醸成が一層必要だ。
今後の社会では学び続けなければ自己実現できなくなっていく。市川伸一氏・東京大学名誉教授は、学力を「学んだ力」「学ぶ力」「測りやすい力」「測りにくい力」に分類している。これから求められるのは、学習を計画する力、自分に合う学習方法を選んだり決めたりする力、コミュニケーション力などの「測りにくい学ぶ力」だ。
学校教育はこれまで、教科の内容をいかに分かりやすく子供に理解させるかに注力してきた。これからは生涯学び続ける自立した学習者を育てることが大きな目標になる。
子供が自ら学びを進めるためにはどうすれば良いか。
平野朝久名誉教授・東京学芸大学は著書『はじめに子どもありき』で、課題と出会ったときに理解や解決に至る道筋は、学んだ者と学ぶ者で大きく異なると示している。子供に任せて止まったり、戻ったり、修正したりして紆余曲折しながら進む道筋が学びである。
教員が考える最短距離で解決に至る道筋は、教員にとってよいやり方であるかもしれないが、目の前にいる子供にとってよい方向とは限らない。
いかに学習者が学び取れるかというところに観点を置いて授業をデザインしていくこと重要だ。具体的には、クラウドで子供が自分で学習するために必要な情報を共有し、子供が1時間の学習課題と学習過程を理解すること、教科書やウェブから必要な情報を集める方法や読み解く力、自分の学びに合わせて個別や協働を選べる力、友達の考えを参考にして学ぶ力、課題が終わっても深く学べるように学びを進め疑問を自分なりに追求してみる力などが必要になる。誰と学ぶか、何から学ぶか、子供が自ら学習を調整することで学ぶ力がついてくる。
端末も子供がこの場面でこう使いたいと思ったときに使えるようにする。教員が効果的であると考えるICT活用を子供に強要するのではない。
高橋純教授・東京学芸大学は、従来型の授業を単線型、クラウドを活用した授業を複線型と表している。複線型は教室の中で個別・協働・一斉という学びが同時多発的に起きている。バラバラに見えてもクラウド上で共有しているため必要な時には互いの考えを参照して学んでいる。
奈須正裕教授・上智大学によれば一斉指導は、電話に似ている。子供は思考している途中でも教員の「はいこっちを見て」「ちょっと聞いて」という言葉に従わなくてはならない。まさに電話である。クラウドやチャットのような非同期型であれば、教員が設定したタイミングに合わせる必要なく情報を参照できる。
最初から全て子供に委ねる必要はない。教科書の構造や読み取り方、写真を撮るときの姿勢など発達段階に合わせた初期指導も大切だ。少しずつ子供が自己決定・自己選択していく場面を増やし、「1学期よりも3学期の方が、子供がより主体的に学びに向かっている」ことを目指していく。
加藤幸次名誉教授・上智大学は「授業はメッセージである」と述べている。子供たちは教員が教えている内容だけではなく、「どう教えているか」からも学び取っている。指導法からも子供に何を学ばせたいかを考えてデザインしていく必要があるだろう。
【第101回教育委員会対象セミナー・金沢:2023年10月13日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年11月6日号掲載